ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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小説.46

公開日時: 2020年11月11日(水) 08:09
文字数:1,463

「さて、ここからは実験室じゃ。お嬢さんには、ちとキツイからここで待っとるか?」

  先生は志織に言ったが志織は大丈夫。と言った。どの部屋の窓とドアには鉄格子がはめ込んである。後付けではない。多分、痴呆の人か、精神が病んでる人達用の病棟なのだろう。

  ドアには窓ガラスがあり、中を覗く。ゾンビが横たわっている。

「この部屋の中のゾンビは血液を全て抜いておる。だからほとんど活動してない。動く為のエネルギーが無いからな。でも死んではいない。このまま放っておけば生きたミイラになるはずじゃ。血液を補充したら動く。抜いた血液にも粒子が入っとる。だがな時間が経過すると消えて無くなる。その粒子はどこに行ったかは分からんのじゃ」


次の部屋に移る。

「これは三体のゾンビを順繰りに食べさしておる。分かるか?三体がそれぞれ同じ分量を食べていけばずっと活動出来るんじゃ。永久機関じゃ。分かるか?」

  志織は首を振る。

「んー、つまり、たとえばこいつの手を真ん中のゾンビに食わす。で真ん中のゾンビの手を左のゾンビに食わし、左のゾンビの手を、最初のゾンビに食わす。それを繰り返す」

「まっ、コヤツらでは、いずれは動かなくなるがの。個体差が全く同じであれば永久機関のエネルギー補給が可能なはずじゃ。理論的にはの」

  先生は次々と自分の成果を見せていく。それは俺にとってはとてもありがたい事だった。

「なぜ俺は、ゾンビにならず、考えたり出来るのですかね?」

「それをこれから研究するのじゃよ。君が特殊な個体でなければいいがのぅ」


  次の部屋には入った。ゾンビはいないが、切り刻んだ肉体の部位がそれぞれガラスビンに入っている。

「血の中にゾンビの部位を入れてある。手足だけでも生きとるのじゃ。動くのを生きとると定義すればな。ただ魚とかと違い反射運動ではないんじゃ。だから生きとると結論づけとる。で、一番の問題は脳じゃ。血で見えないから気持ち悪くはないでな。やはり大脳辺緑体の部分は活発に活動しとる」

  俺は志織に大丈夫か?嫌だったら廊下で待っててもいいぞ。と言った。が志織は首を振る。麻痺してるのか、慣れてるのか。俺は慣れてるし、知っておくべき事。何より気持ち悪いとか思うのは贅沢な感情と思ってる。

「そして、ここからが問題」


  次の部屋には医者の着るドクターコートを着た人間が居た。手が拘束され、足は繋がれている。

「先生、開けてください。もう大丈夫ですから」

  言葉や目つきはしっきりしているが、お腹から胃袋や内臓がハミ出ていた。

「早川君、君から志願したのだろう?それにこの実験に参加しなかったらとっくに君は死んでたはずだ。君は生きたいんだろう?」

「もう大丈夫です。だから出してください。お願いします」

  男は泣き崩れ土下座する。

「この男は三週間前にゾンビに腹を掴まれて重症じゃったんじゃ。助けてと言うから選択させてやった」

「この男はもう二週間も人間の食事を摂っておらん。これ以上ゾンビの肉をやると脳が衰退しよる」

「ゾンビの肉を食べさせてるのですか?」

  俺は聞いた。

「もちろん。人間の肉だと脳が硬化してしまうんじゃ」


「不思議な物を見せよう」

  老人は次の部屋へ移る。

「ここも入ってもかまわん。ゾンビの血液、唾液、骨髄、脳漿。つまりゾンビの体液が人間の体内に入るとゾンビ化するんじゃ。一番効果的で速攻力があるのは、脳漿じゃ。続いて骨髄、唾液。意外や意外、血液はかなりの量を摂取しないとゾンビはしない。つまり血液は多少なら体内に入っても大丈夫なのじゃよ」

  中には八体の遺体が机に固定されているが、どれも動いていなかった。


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