部屋へ入る。部屋は単なる通路。靴やバッド、リュックが置いてある。その数から多分一人と推測。
部屋から廊下へ。下への階段は洗濯機や家具で山積みになっていた。各階に四部屋。三階建ての小さなマンション。両端に階段。階段はどちらも家具で出来たバリケードで通れない。
三階に上がる。真ん中の部屋の通路にゴミが捨てられてある。多分、この部屋に人間がいる。鍵はどこも開かない。屋上に上がり、俺はロープをかけて三階のベランダへ降りる。そのベランダから人間の居る隣の部屋を覗く。薄暗い。発光は見えない。
音を立てずに窓を少し開ける。座ってる足が見える。発光していない。確実に死んでいる。俺は立ち上がり窓を開けて入る。
三十代位の男性。右手には拳銃。喉と頭から血がしたたり落ちている。
志織の予想が正解。
ベランダから屋上にいる志織に言う。
「自殺だった」
これで志織はここに来るだろう。玄関のドアを開けとく。
拳銃を拾う。弾は無かった。残りの一発だったのか。志織が来て死体を一瞥してから言った。
「食べる?」
真顔だった。俺も思っていた。確かに食べるべきだ。だが、俺は人間を食べたい訳じゃない。抵抗はある。食べたらかなり力にはなる。新鮮な死体は滅多にない。
俺の脳内で食べる為の理屈探しが始まる。
このままでは腐り朽ちてくだけ。有効利用した方がいい。いいに決まってる。自分に言い聞かす。
食べるべき。生き抜く為に。志織の為に。生き抜く為に人間を殺した訳ではない。死んでいた人間を摂取する。死んだ人間はただの肉の塊。タンパク質とカルシウムと水分の塊。細切れにすれば豚肉と見分けがつかない。
生き抜く可能性を高める事をやる。命は他の命で生きている。缶詰の肉も元は命だ。野菜もフルーツも。全ては同じ命だ。人間だけが特別な命ではない。
俺は生き抜く為に食う。動く物として。間違いかどうかなんて人間には分からない。そこまで崇高な存在じゃない。
腹は決まった。ここまで考えないと俺は死体でも人間を食べられない。死体を裸にし、後はいつもと変わらない行動。首元にかじりつく。だがやはり気持ちは複雑だった。
この世界では新鮮な食料を見つけたら喜ぶのが正解なはずなのに。
消化されるのを待ちながらこの部屋を眺める。対ゾンビ対策はしっかりと施されている。俺に気遣ってか志織は外に出ていた。
生活の汚れはあるが割と綺麗だし、きっと水もあるのだろう。隣の部屋を拠点にしてもいいだろう。
血だらけの身体。まだゾンビが襲わなくなるまで時間はある。外に置いた荷物はあれだけのゾンビが居るから人間に盗られる心配はない。
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