前の世界。遥か彼方の記憶。前世のような錯覚が起きる。
これといった趣味はなかった。大学は入っとけと親に言われて入り、バイトをし、友達と遊ぶ。それ以外はほとんどうろ覚え。それだけ薄かった。って事か。
志織が居なかった。何かにここまで固執した事はなかった。ここまで必死になった記憶はなかった。
志織が居る世界の方がいい。それだけは言える。
パルが立ち上がった。その気配で現実に戻る。俺も立ち上がる。ダビデをなんとかしなければならない。
「ダビデにやられるしかないのかな?」
俺は聞かずにいられないので口にした。
「まぁ焦っても仕方ないさ。そのうち良い案が出てくるよ」
トニは軽い。俺が慎重し過ぎるのか?
「カーリーのデメリットは何だと思う?」
俺はメゲずに聞いた。志織の書いた小説を思い出す。何かしら必ず弱点はあるはずだ。頑強な強さが裏から見たら脆弱な弱さにもなるからだ。
「ずっと孤独だわ」
志織が答えた。そう。AZの元に戻れず、近くに誰も近寄れない。だがダビデは孤独の辛さを知らない。分からない。
「友達に頼むのは?」
エイやシンは志織の友達だと書いてた。
「多分、助けてはくれるとは思うけど連絡手段が無いわ」
「あの小説のようにいかないかな?」
「ダビデには無理ね。孤独の怖さをまだ知らない」
俺はため息を吐いた。と同時にパルが、敵だ。と言った。パルの視線の先にたくさんの敵。
次から次へと敵は来る。蛾が明るい所に集まるように。そして近付けば炎に焼かれるように地面に倒れていく。
やっと明るくなりライフルが役に立つようになった。偶然か分からないが避ける敵も何人かいた。他のポピュレーターよりも明るい敵も居る。強いって事だ。それでも志織に倒されていく。
ずっと戦っている。肉体的な疲れはない。筋肉痛や傷付けられた痛みもない。身体の回復力が遅くなる。あとは集中力が低くなる。くらいか。
志織達の戦い方をずっと観ているだけで、自分も戦闘をしてるような気分になる。
志織は敵の攻撃をかわし反撃する。たまに不安定な足元でグラつくくらい。
志織の圧倒的な強さ。ダビデはもっと強いのか?ダビデから逃げる事を考えるなら倒す事を考えた方が早い。そう思える程の強さだった。
俺はライフルで遠くの敵の口の後ろ、松果体と、近くに来る敵の足元を狙い定めて引き金を引く。それだけしか考えられなくなる。
気がつくと暗くなり、あっという間に一日が終わる。でも戦いは終わらない。
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