ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.44

公開日時: 2020年12月5日(土) 07:58
文字数:1,223

  ツトムさん達は、ワナを見に行くと言う。着いて来るかとは聞かれなかったので、気を付けて行ってらっしゃい。と言っただけだった。ここら辺りに動物はいるみたいだ。魚かもしれない。

  一時間もしないうちに帰って来た。キジみたいな鳥を数羽とタヌキを数匹。

  皆、満足気な顔をしていたからこの量は成功なのだろう。四十五人分にとうてい足らない。

「今日はたくさん獲れたが、こんなに獲れるのは滅多にない」

  ツトムさんは言った。俺はあいまいにうなずく。食べ物に文句を言うな。と言いたいのだろう。俺は食べないのだから全く構わない。

「後でまた来る」

  とツトムさんは言い残し三浦家に戻った。

  夕飯の時間。志織ではなくツトムさんが食事を持ってきた。食事は豆を煮込んだスープだった。

「肉も入ってるぞ」

  ツトムさんは俺に渡す。食べないわけにはいかない。水モノを摂ると早く左腕に腐敗物が貯まる。が仕方ない。俺が食べ終わるまでツトムさんは無言。

「よくこんな暗い所で一人でいられるな」

  ツトムさんは呟くように言った。

「もう慣れましたし、楽なんですよ。一人が」

  俺の返事。ウソではない。

「明後日に調達しに行く。悪いが行ってくれないか」

  ツトムさんは言った。これを言う為に来たのだろう。俺はもちろんです。とうなずく。

「あとな…」とツトムさんが言い淀む。多分ミズホさんの事だろう。

「ミズホさんの事ですか?」俺はツトムさんが言いやすいように後押しする。

「それもあるんだが」

  ツトムさんは一つため息をついて続きを言った。

「信長ってヤツがいる。名前は大層ご立派なんだが、クズなんだよ。そいつも行かす」

  少しの沈黙の後、話続ける。

「去年の冬はギリギリだった。分かるか?」

  俺は理解した。その信長を帰らせない。三浦家から追い出す事。

「分かりました。帰りは一人減ります」俺は言った。

「遠い親戚なんだがな。万一、帰って来られたらお前がヤバくなるぞ。それとミズホの事だ」

  俺はうなずく。ツトムさんはすぐ次の話題に変えた。やはり身内を切る事は苦しいのだろう。

「昔からジャジャ馬なとこはあったのだが、どうにもこうにも」

「頼もしいじゃないですか」俺は愛想を返す。

「俺は滅多にこの家から遠くへは行けん。かといって他のメンツではダメだ。話にならん。だがお前なら。と考えてはいる。連れてくのをどう思う?」

「ツトムさんも感じてるでしょうが、ツトムさん以外あまり危機感がなさそうに見えます。普通の生活なら必要ないんでしょうが、今は厳しいと思います。実践はリスクあるでしょうが必要ですね」

  俺は言った。志織の為にも。とは言わなかった。

「練習はさせてるんだが、やはり実践とは違うか」

  ツトムさんも思ってたらしい。だが任せられる人がいなかったのだ。

「俺が調達に行かないのは、臆病だからじゃないぞ」

「分かってます。ツトムさんは絶対に三浦家を守る事が優先です」

  平和を守るのは守るだけではダメなのだ。攻撃とは違うが、もっと過酷になれば略奪も視野に入れないと守り抜けない。


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