ツトムさん達は、ワナを見に行くと言う。着いて来るかとは聞かれなかったので、気を付けて行ってらっしゃい。と言っただけだった。ここら辺りに動物はいるみたいだ。魚かもしれない。
一時間もしないうちに帰って来た。キジみたいな鳥を数羽とタヌキを数匹。
皆、満足気な顔をしていたからこの量は成功なのだろう。四十五人分にとうてい足らない。
「今日はたくさん獲れたが、こんなに獲れるのは滅多にない」
ツトムさんは言った。俺はあいまいにうなずく。食べ物に文句を言うな。と言いたいのだろう。俺は食べないのだから全く構わない。
「後でまた来る」
とツトムさんは言い残し三浦家に戻った。
夕飯の時間。志織ではなくツトムさんが食事を持ってきた。食事は豆を煮込んだスープだった。
「肉も入ってるぞ」
ツトムさんは俺に渡す。食べないわけにはいかない。水モノを摂ると早く左腕に腐敗物が貯まる。が仕方ない。俺が食べ終わるまでツトムさんは無言。
「よくこんな暗い所で一人でいられるな」
ツトムさんは呟くように言った。
「もう慣れましたし、楽なんですよ。一人が」
俺の返事。ウソではない。
「明後日に調達しに行く。悪いが行ってくれないか」
ツトムさんは言った。これを言う為に来たのだろう。俺はもちろんです。とうなずく。
「あとな…」とツトムさんが言い淀む。多分ミズホさんの事だろう。
「ミズホさんの事ですか?」俺はツトムさんが言いやすいように後押しする。
「それもあるんだが」
ツトムさんは一つため息をついて続きを言った。
「信長ってヤツがいる。名前は大層ご立派なんだが、クズなんだよ。そいつも行かす」
少しの沈黙の後、話続ける。
「去年の冬はギリギリだった。分かるか?」
俺は理解した。その信長を帰らせない。三浦家から追い出す事。
「分かりました。帰りは一人減ります」俺は言った。
「遠い親戚なんだがな。万一、帰って来られたらお前がヤバくなるぞ。それとミズホの事だ」
俺はうなずく。ツトムさんはすぐ次の話題に変えた。やはり身内を切る事は苦しいのだろう。
「昔からジャジャ馬なとこはあったのだが、どうにもこうにも」
「頼もしいじゃないですか」俺は愛想を返す。
「俺は滅多にこの家から遠くへは行けん。かといって他のメンツではダメだ。話にならん。だがお前なら。と考えてはいる。連れてくのをどう思う?」
「ツトムさんも感じてるでしょうが、ツトムさん以外あまり危機感がなさそうに見えます。普通の生活なら必要ないんでしょうが、今は厳しいと思います。実践はリスクあるでしょうが必要ですね」
俺は言った。志織の為にも。とは言わなかった。
「練習はさせてるんだが、やはり実践とは違うか」
ツトムさんも思ってたらしい。だが任せられる人がいなかったのだ。
「俺が調達に行かないのは、臆病だからじゃないぞ」
「分かってます。ツトムさんは絶対に三浦家を守る事が優先です」
平和を守るのは守るだけではダメなのだ。攻撃とは違うが、もっと過酷になれば略奪も視野に入れないと守り抜けない。
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