俺はまだ裸。男の身体。元の俺の身体より背が高い。視野、視界の違和感はある。体重の重さは感じない。アルコールを浴びまくる。タオルをぞんざいに使い血と酒を拭き取る。
志織は似合わない赤いドレスを着た。ブカブカだが仕方ない。スカートを切り短くする。裾をまくる。
食事。棚を漁る。ナッツ類とチョコレート。志織は食べ始める。机の上に電池式のキャンドル。全て点ける。
タキシードみたいなスーツを見つけ俺は着る。
赤いドレス姿の少女と白い肌の男のスーツ姿。何の笑い話だ?笑えない。
外に出てみる。病院からかなり離れていた。遠くで薄ら明るい場所。おそらくあそこが病院だと思う。まだ火があがってる。
バイクを取りに行く。あれは俺のだ。俺と志織のだ。
何日経った?と聞く。二週間位。と志織。
病院はどれ位燃えたのか?バイクは無くなってると覚悟した。あの医者達は?の答えに志織は、分からないと、答える。
頭がカッと熱くなる。怒りが満ちる。許せない。志織をこんな目に合わせた。
志織は、怖いと言った。また我に返る。俺らしくもない、怒りの感情に溺れてる。こんなに頭にきた事は今までに一度もなかった。スナックの看板を蹴りたくなる。今まで八つ当たりをした記憶はない。なんとか我慢する。自制する。やるべき事はなんだ?
これ程の怒り。俺が俺でないみたいと思った瞬間、ゾッとした恐怖を感じた。もはや、身体は俺のモノではない。なら俺である証は、心や感情。思考だけだ。こんな怒りは俺ではないはず。
人類の為に?クソくらえだ。心の声。
ちょっと待て。この気持ちは俺の気持ちか?本当に俺が思ったのか?
「ヒロ?」
志織の声で自分だけの世界が消えた。
「本当にごめん。次に呆けてたり、考え事に集中してたら声かけてくれる?」
俺は言った。志織はうなづく。
怒って当然だと思う。でもそこで怒ったら負けだと思ってる。復讐して何になる?そんなプライドはなかったはず。そんな状況になった自分の愚かさを反省すべき。次から気をつけるべき。一時の感情に囚われるのは恥ずべき事。
そう。この考え方が俺だ。だが、だが、許せない気持ちがまだ強い。
「ヒロ?」志織の声。
そうだ。志織を怖がらせてはいけない。安心させなければ。やるべき事を考えろ。俺の感情は二の次だ。
やっと落ち着いた。そうだ。怒りに身を任せて何になる?志織を困らせるだけだ。
「バイクは無いと思うが、見に行こう。そして実家に行こう」
俺は言った。志織はうなづいた。
怒りよりも優先すべき事を考える。まずは志織の服。靴も無い。志織の靴。俺の靴。ヘルメット。食料。もう一度身体を洗う。テント。シェラフ。志織の睡眠。
なんだ、やるべき事はたくさんあるじゃないか。怒りに振り回されてる場合ではない。
本当にそうか?
もう一つの心の声。無視する。
家探しをしながら病院に向かった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!