ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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小説.49

公開日時: 2020年11月14日(土) 08:31
文字数:1,155

  俺はまだ裸。男の身体。元の俺の身体より背が高い。視野、視界の違和感はある。体重の重さは感じない。アルコールを浴びまくる。タオルをぞんざいに使い血と酒を拭き取る。


  志織は似合わない赤いドレスを着た。ブカブカだが仕方ない。スカートを切り短くする。裾をまくる。

  食事。棚を漁る。ナッツ類とチョコレート。志織は食べ始める。机の上に電池式のキャンドル。全て点ける。


  タキシードみたいなスーツを見つけ俺は着る。

  赤いドレス姿の少女と白い肌の男のスーツ姿。何の笑い話だ?笑えない。


  外に出てみる。病院からかなり離れていた。遠くで薄ら明るい場所。おそらくあそこが病院だと思う。まだ火があがってる。

  バイクを取りに行く。あれは俺のだ。俺と志織のだ。

  何日経った?と聞く。二週間位。と志織。


  病院はどれ位燃えたのか?バイクは無くなってると覚悟した。あの医者達は?の答えに志織は、分からないと、答える。


  頭がカッと熱くなる。怒りが満ちる。許せない。志織をこんな目に合わせた。


  志織は、怖いと言った。また我に返る。俺らしくもない、怒りの感情に溺れてる。こんなに頭にきた事は今までに一度もなかった。スナックの看板を蹴りたくなる。今まで八つ当たりをした記憶はない。なんとか我慢する。自制する。やるべき事はなんだ?


  これ程の怒り。俺が俺でないみたいと思った瞬間、ゾッとした恐怖を感じた。もはや、身体は俺のモノではない。なら俺である証は、心や感情。思考だけだ。こんな怒りは俺ではないはず。


  人類の為に?クソくらえだ。心の声。


  ちょっと待て。この気持ちは俺の気持ちか?本当に俺が思ったのか?


「ヒロ?」

  志織の声で自分だけの世界が消えた。

「本当にごめん。次に呆けてたり、考え事に集中してたら声かけてくれる?」

  俺は言った。志織はうなづく。


  怒って当然だと思う。でもそこで怒ったら負けだと思ってる。復讐して何になる?そんなプライドはなかったはず。そんな状況になった自分の愚かさを反省すべき。次から気をつけるべき。一時の感情に囚われるのは恥ずべき事。


  そう。この考え方が俺だ。だが、だが、許せない気持ちがまだ強い。


「ヒロ?」志織の声。

  そうだ。志織を怖がらせてはいけない。安心させなければ。やるべき事を考えろ。俺の感情は二の次だ。


  やっと落ち着いた。そうだ。怒りに身を任せて何になる?志織を困らせるだけだ。


「バイクは無いと思うが、見に行こう。そして実家に行こう」

  俺は言った。志織はうなづいた。


  怒りよりも優先すべき事を考える。まずは志織の服。靴も無い。志織の靴。俺の靴。ヘルメット。食料。もう一度身体を洗う。テント。シェラフ。志織の睡眠。

  なんだ、やるべき事はたくさんあるじゃないか。怒りに振り回されてる場合ではない。


  本当にそうか?

  もう一つの心の声。無視する。


  家探しをしながら病院に向かった。

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