志織を置いて俺はヨシオのアパートへ向かった。志織は凄くイヤがったが、ここではまず死なない。と強く言い聞かせ、欲しいモノは無いかと聞いた。
本とゲーム機。
そんな余裕がよくあるな。と言おうと思ったが、現実逃避したいのかも。と思いついたので、分かった。と答えた。独りで、何もしないと不安で押し潰されてしまう。
食料と水はある。無理さえしなければ当分、ここに住めるはずだ。
道路に出る。耳をすます。ゾンビ以外の音や声は聞こえてこない。バイクや車の音。ヘリコプター、飛行機。叫び声や日本語。何も聞こえない。
電気屋が視野に入った。店内に入る。中は荒らされていない。俺は乾電池のゲーム機とソフト。持てるだけの電池と懐中電灯を持ち出し、志織の居る部屋まで戻る。ドアの前に置き、三三七拍子のノックをし、階段を降りた。
遠くで発砲音が聞こえた。人間が居る。そう言えばゾンビの数が今朝見た時よりも少ないように感じる。ゾンビの動向を見る。発砲音の方へゾロゾロと歩いている。
やはり人間がいるのだ。俺も物陰に隠れながら近付く。姿はまだ見えないが近づくにつれて、一人ではなく何人かいる事に気付いた。複数の怒声と罵声が聞こえてくる。ヤクザか半グレに違いない。近くのマンションに上がる。四階まで上がりやっと見えた。やはりヤクザだった。遠目でも分かる。十人位居て、トラックに荷物を詰め込んでいる。トラックの周りでバットやゴルフのドライバーなどでゾンビに向かって振っている。だがゾンビの数が尋常ではない。もっと集まってくる。発砲音は鳴り止まない。それでもゾンビの数は減っていない。
トラックが走り出し、前にいたヤクザとゾンビを轢いた。後ろの荷台から積んでいた荷物が落ちる。バッグする。後ろにいたヤクザとゾンビを轢く。めちゃくちゃだった。
双眼鏡が欲しい。ヤクザとゾンビの攻防を見てる人間が俺以外に居る可能性がある。
アイツラの拳銃が欲しかった。帰りに取りに行こうと思った。
ヨシオのアパートまで一駅の距離。
聞こえてくるのは、遠くから発砲音。まだ交戦している。だがずいぶんと発砲音は減っている。近くではゾンビの唸り声と咀嚼する音。骨も食べてるのだろう。犬が人間の姿になり、落ちてる大きな肉の塊を食べてるようだった。
ふと気付く。子供のゾンビが居ない。女性のゾンビも少ない。赤ん坊も見ない。弱い者から襲われてくのだろう。なんとなく分かってきた。俺はゾンビよりも強い。だからゾンビは俺から逃げるように離れていく。
ゾンビの動向が一つ分かった。
猫の鳴き声がする。木の上に猫がいた。真下にゾンビが集まってる。
俺は近づく。ゾンビは散り散りに離れていく。猫はゾンビにならないらしい。だがゾンビの肉を食べたら変わるのか?分からない。猫は降りてこなかった。俺は石を軽く投げる。猫は転がるように落ちすぐ逃げ出した。怪我はないようだった。
恩返ししてくれないかな?俺は思った。当然あてにはしてない。ただそう思っただけだ。
ヨシオのアパートの前にヘルメットをかぶったゾンビが居た。あの服は見覚えがある。ヨシオだ。ヘルメットをかぶってるので食べられないらしい。しゃがみ込んで死体にヘルメットをこすりつけている。
俺は逃げようとするヨシオを捕まえ、ヘルメットを取ってやった。顔は俺と同じ真っ白だがヨシオだった。
逃げようとするヨシオの服を破かないように脱がす。服の下にはナイフが三つ、ナイフホルダーに挟まっていた。ナイフホルダーは外れなさそうなのでナイフだけを取る。靴も取りたかったが諦めた。ズボンが破けている。噛まれたか、掴まれたか。
逃げてくヨシオを見守るしかなかった。
しかし、どうやってゾンビになったのだろうか?食われたらそのままゾンビに食われてしまうはずだ。食われなかった人間がゾンビになるのか?
分からない。
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