夜明け前に、赤い発光体が二人が見えた。多分、トニとパル。志織と目が合い、志織が頷く。トニとパルだと確信。
二つの発光体のうち一つが飛び跳ねてる。あんな事をやるのはトニしか居ない。俺も飛び跳ねる。
「志織もやろうよ」
と言いたかったが、真面目な雰囲気だったので言えず、飛び跳ねるのも辞める。
「なんで飛び跳ねないんだよ」
近付いてトニが言った。トニは普通の服装だった。どこかで着替えたらしい。パルは汚れたままだった。
「皆、無事で良かった」
俺は声をかける。
「ダビデが凄いぞ。もう無敵に近い」
トニは俺にうなづいた後に言った。
「まだ大丈夫だが一カ月後にはヤバいぞ」
「何が?なんで?」
「そりゃダビデが生き残った仲間を喰っちまうからさ」
「どうやって無敵になるんだ?志織も強いぞ」
「志織でも無理だな。強い敵にパーティクルを放ち始めたからな」
「包み込めるの?」
トニは残念そうにうなづいた。
「逃げないと」
「ダビデのパーティクルが付いてるから難しいぞ」
「地球の反対側に逃げても?」
「距離は関係無いんだ。繋がってるからな」
「どうやって捕まえるんだ?」
「どこに居てもダビデのパーティクルがどんどん送られてくるのさ」
「それで?」
「思考や身体の動きを止められてしまう。ある意味乗っ取られてしまうんだな」
「外せないの?」
「ダビデ本人が外せる。もしくは死ねば解放さ。それかダビデより多くのパーティクルを持ってればな」
ダビデを殺す。
「カニやエイとぶつけたら?」
「メリットが無いから動かない」
「トニとパル、志織でダビデを倒せる?」
「無理だな」
「最初に教えてくれたら良かったのに」
俺は言っても仕方ない事を口にした。
「ダビデが迎えに来た時か?アレ断ったらあの場で殺されていた。仕方ないんだ」
「逃げたら文字通り俺達はゾンビになるんだよ」
トニはゾンビの真似事をしながら言った。笑えないジョークだ。だが怒りはない。志織もトニも知っていて落ち着いている。何か策があるに違いない。
「本当は何か策があるんだろ?」
俺は聞いたが、トニは首を振りながら、
「誰に回収されるか?だな。最後にはAZの元にいくんだから、どうせ殺されるなら仲間にだろ?」
ポピュレーター達は人間ほど生き抜くのに執着してない。
以前も思った事があったが、ポピュレーター達にとって、ここの世界はある意味夢の中の世界。目覚めても元の世界がある。
夢の世界でいつまでも生きたいと思う人間は居ない。それにこの世界にずっと居るには、カーリーにならなくてはならない。
俺ももし、この世界が夢の世界ならトニのように気楽だ。夢の世界だから殺されても別になんとも思わない。
夢の世界は所詮、夢の世界だから。
ある意味、偽物の世界。本当の世界ではない。
だが夢だろうが偽物だろうが俺にとってはこの世界が本物の世界なのだ。
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