志織がやって来る。
「昨日と同じ豆スープ」志織が言う。
多分、この時期は豆が採れる時期なのだろう。俺は志織に食べるよう促す。志織は口に入れる。
「小説、冬まで書いた」と俺は言った。
「まだそこなの?」と志織。
確か前回読んだのは病院に行く途中位だったか。
「パルキッツァや学校やモデルの部屋の事を書いた」
「パルキッツァ、元気かなぁ」
志織は最後のスープを飲み干して言った。
「会いたいと思う?」
「今はね」
病院の話はしなかった。俺は志織に引け目や負い目があるから。どうせ読んで分かるだろうし。
「モデルの部屋はよかったね」
俺は話題を振った。志織は俺の気持ちに合わせてくれたのか、本当によかったからなのか、
「もう、本当に最高だったわ。ずっとああいう生活に憧れていたのよ」
嬉しそうに言った。
「私ん家貧乏だったし、ママのアクセサリーは絶対触らせてくれなかったしね」
俺はうなづく事しか出来ない。
「なんであんなにゾンビが集まったんだろうねぇ」
俺の言葉。
「多分、周りに人が誰も居なかったのか。私のストレスが無くなったのか、身体が健康になったからか。それしか思い付かないわ」
志織も考えていたみたいで、すぐに答えた。
「もし、健康な身体だったらここにもゾンビが集まると思うんだが」
俺は心配してる事を言った。
「もしそうなら、ツトムさん達の所にすでに集まって来てるんじゃないかな?あの子供達、皆健康よ」
そうなのだ。もし健康な人間を襲うならここにもっとゾンビが居てもおかしくはない。それが逆にほとんど居ない。
ツトムさん達は、この辺りのゾンビは全て殺した。と言っていたのだが。近くの町にもっと大勢の人間がいるコミニティーがあるのかもしれない。
「よく寝れた?」
俺は聞いた。
「まぁね。子供達が一緒に寝ようって言ってきて一緒に寝たわ」
「そうか。それはよかった」
「…ねぇ、独りは寂しくない?」
志織は唐突に聞いた。俺を心配してくれてる。
「小説書いてるしなぁ。会おうと思えば会える距離だし大丈夫かな」
寂しくなった時はあった。病院で志織が助けてくれた時の事を書いて、志織を愛しく思えた時だった。
「志織は?」
俺はなんか恥ずかしくて言い返した。
「まぁ寂しくない。って言ったらウソになるわね」
「寂しいの?」俺は言い返した。
「だから、寂しくはない。って言ったらウソになるわ」
志織の同じ答え。ニュアンスが違うのか、よく分からない。
「まぁ、毎日御飯持って来てくれるしな」
俺は誤魔化す。二人とも、無言。だがミズホさんの時の無言とは違う無言。変に気を使わない今までと同じ無言の時間。それが自然で当たり前の居心地の良い空気。
「小説見せて」と志織。別に無言の空気が嫌で誤魔化したのではなく、見たいから見せて。と言っただけの言葉。
「誤字脱字あったら一行空けといて」
と俺。志織は小説を読み始める。俺は志織を見たり、外を眺めたり。ソワソワした。
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