ふと、視線を感じ振り返る。痩せ細った若い男が物陰から俺を見ていた。俺は軽く頭を下げた。男は挨拶を返さず引っ込んだ。雰囲気はニートっぽかった。人間関係が苦手で、興味はあっても自分からは動かない。動けない。自分に劣等感を強く持っているタイプ。
考えてると志織が来た。
「どう?」
俺が聞こうとした事を先に言われた。
「水も食料もあるし、人間関係もなかなか良好そうじゃないか」
俺は答えた。
「子供達が凄く平和なのよ。田舎の子供達って感じ。しばらくしたら色々東京のお話をしなきゃならないのよ」
志織は満足そうだ。俺は嬉しかった。
「色々、話を聞かせてあげればいい」
「うん。そのつもり。風呂も入っていいって。外にもあるみたい。皆で一緒に入るのよ」
皆…子供達。
「露天風呂か。オーロラを見ながらの風呂はいいかもな」
「荷物取って来ないと。どうする?」
志織は屈託無く言った。ここを気に入ったらしい。
俺はどうなる?その思いは言葉にしなかった。出来なかった。
「後で取りに行くよ」
お姉ちゃーん。子供達が志織を呼ぶ。
「行って来なよ」
俺は志織に言った。志織は笑って子供達に向かって行った。
俺はどうしたらいい?
一緒に食事をするだろう。風呂に入れと言われるだろう。部屋と布団を借りるだろう。医者が見てあげると言われるだろう。部屋の中で手袋は外さなければならない。どう断る?
思い付きの考え。ここは高台で竹やぶもあり、道からは全く見えない。つまりはここから道の方が見えない。だから小さな見張り小屋を作り、そこで俺は見張りながら住む。食事は少な目にしてもらう。それなら誰にも見られないし、寝なくてもバレない。
なんだかんだ理由つけて一人で外出しなければならない。摂取と左腕の交換。昨日摂取したから最悪でも六日は持つはずだが匂いがキツくなる。ヤケドのせいで皮膚が。と誤魔化せるが限界がある。
いつも志織は大丈夫。と言うが、気遣いからかもしれない。匂いはしないから大丈夫。と、これ位の匂いなら大丈夫。きっと後者だろう。
考える時間はある。とりあえず今夜は手にファンデを塗り、食事は軽く。食べられるが味も分からないし、そのまま左腕に排出される。風呂は遠慮しとこう。
ある程度の想定をつけた。これ以上は深読みになる。浅はかな考えもダメだが、深読みも良くない結果が出る。経験済みだ。
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