三人が近付いてくるが志織は振り向かず、剣も降ろしたまま。三人が同時に斬りかかる。
志織は低くしゃがみ込み、背後に円を描くように剣を振り回す。三人の足が綺麗に切れる。三人崩れる最中に志織はスピードを増してもう一回転し、三人を一筋で順次に頭を切断する。最後の一人だけ剣で塞がれた。と思った瞬間、志織のその剣は既に下からその男の喉に突き刺さっていた。
三人のパーティクルが志織に吸収されてく。
「吸収されてくのは分かる」
俺は言った。気休めにもならない。それが見えても強くはなれない。
志織は足元に倒れてる男の首をはねて切れた首から血を啜った。俺も片方の腕で男の首元にかじりつく。俺の切られた箇所が治るのを待ってから、
「とりあえず離れようか。私も疲れた」
疲れてはいないと思う。志織の優しさだ。だが志織の言葉に俺は従う。
抗うプライドはない。現実を見るだけ。俺は弱い。だから志織に甘えるしかない。仕方ない。かと言って弱者の立場を利用したくもない。
二人で走り出す。かなり走り激戦区から離れた頃、志織が背中におぶさってきた。
「疲れたから」と言って笑った。
俺は少し救われた。ほんの少し。ほんの少しだけでも志織の役に立てる。
もちろん志織は俺を気遣ってわざとおぶさってきたのだ。俺は気付かないフリをして志織の優しさに甘えた。
「走るよ」
俺は言って走り出した。行き先はあの隠れ家。隠れる為ではない。志織の発光は明るい。明る過ぎる。たとえ地中に居てもバレる。
隠れ家には何丁かの銃がある。俺の目的。志織をおぶるだけよりかは、はるかに役に立つ。
ひたすら走り続けて隠れ家に着く。疲れはない。銃からスコープを外し覗いてから言った。
「俺はレンズ越しだとパーティクルが見えなくなるんだ」
スコープから目を離し、スコープを宙に一回転させ掴みまた言う。
「ポピュレーターはレンズ越しでも発光は見える。だからなかなか当たらない。俺の目がいいと思ってたが、ポピュレーターの目が悪いみたいだ」
志織にスコープを渡してからまた言葉を付け加えた。
「目の代わりパーティクルで判断してるんだな」
志織はスコープを覗いた後に、スコープを軽く放る。瞬時に剣を抜きスコープを剣先で拾う。スコープは落ちずに剣先に乗った。
「目で見てるわけじゃなく、パーティクルで分かるのよ。遠くに離れてあっても目の前にあるように分かる。だけど遠くの文字は分からない」
動きが分かるのだ。逆に動かないのは近寄らないと分からない。瞬時に思い付く。
「ワイヤーはどう?」
見えにくい頑丈なワイヤーを首元辺りに張っておけば。
「使えるわね」
志織は答えた。
「弾とか避けられるの?」
「意識してればね」
俺は志織から遠くに離れて、志織の横に撃ってみた。志織は右手を上げた。分かるらしい。
少しずつ近付きながら撃つ。そのつど志織は手を上げる。十メートルくらいか。その辺りで志織は手を上げなかった。
「この距離なら志織でも当たるんだな」
俺の言葉に志織は、あいまいにうなづいた。でもこれだけ近いと銃口と指先の動きで避けられそうだ。狙われる箇所も松果体だと分かってる。
「身体洗ってくるわ」
志織は言った後に、崖に向かって走り出し海に飛び込んだ。
多分、今頃気付いたのだと思う。自分が汚れた身体な事に。
俺は小屋から志織が着れそうな服や靴。タオル、石鹸を探し、崖を降りた。両手を使わなくても足だけで降りれる。コツは着地の時にいかに柔らかく踏むか。踏みどころに負荷をかけると足場は崩れるし、関節や足裏が痛む。
志織は裸で泳いでいた。羞恥心はないのか?いや、あるはず。
俺はどうすべきか?ここら辺りの判断も俺には難しい。服や靴を置き、無難に後ろを向く。
崖を見上げ、よく俺が降りれたな。と自分に感心する。志織が裸だという意識を打ち消す。
俺が恥ずかしい気持ちになると志織も恥ずかしくなると思ったからだ。
「ありがとうねー」
海の音に混ざって志織の声。俺は振り向かず右手を上げてそれに答える。志織の屈託ない声。変わってなかった。
志織があまりにも強くて冷静過ぎて、志織が変わってしまったかと少し不安だったが、志織は志織だった。安心して笑みが浮かぶ。後ろを向いたままで良かったと思った。
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