ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.70

公開日時: 2021年1月10日(日) 10:51
文字数:1,018

  後味の悪い出来事。だが仕方ない。二ヶ月しか持たなかった平和な世界。

  ゾンビはゾンビらしくあてもなく彷徨えと言うのか?


「やっぱり作るしかないのか」

  俺は呟いた。そう。今まで平和な場所をずっと探していた。だが、作る事も出来る。平和な場所を作ればいい。


  作るより探した方が可能性が高かったから探していただけ。平和な居場所は自分で作れるのだ。現に冬の旅館、学校や高級マンションも快適だった。


  たくさんのゾンビが集まろうとも、俺には関係ない。志織さえ外に出なければ。三浦家だって、結局は外には出られない。自由な移動は制限される。それは刑務所だろうが、小さな離島や船だろうが同じ。

  マンションに土を運べば栽培も出来る。


  変なヤツにさえ会わなければ。


  ゾンビはよほど甘く扱わなければ大丈夫なはず。人間も大勢でなければ。だがタオみたいなヤツ。それが問題だ。

  歩き回るのは遭遇する可能性が高い。

「人気のないしなびたホテル。学校。高級マンション。どこがいい?」

  俺は志織に聞いてみた。

「それだと高級マンションかな。やっぱり」

  志織は普通に答える。哀しい感じでも怒ってる感じでもない。普通。ごく普通。いつもの志織。それだけで安心する。


「なるべく暖かい方がいいか」

  俺の独り言。とりあえず目指すのは電車の線路。そこから大きな駅に向かえば行き先が分かるし、線路なら迷う事はない。

「やっぱ三浦家に居た方が良かったかなぁ」

俺は言ってみた。

「いつかは出るつもりだったからね。正直いいチャンスかなと思っていたわ」

  志織の返答に俺は少し驚いた。出るつもりだったとは思ってもいなかった。平和が崩れたら出るのは分かるが。

「なんで?」

「ずっと平和な場所なんて無いと思ってるから」

  シンプルな答え。もちろん俺もそう思ってはいるが、自分から平和を壊す必要はないと思ってる。

「ヒロはツトムさん達のとこに居たかった?」

  志織が尋ねる。俺はどちらでもいい。志織さえ居れば。それが本音。

「志織さえ居れば」

  思わず口に出た。

「私もヒロさえ居れば」

  志織はそう言って顔を背けた。俺は志織の顔を見たかった。覗き込む。

「やめてよ」

  と志織は顔をさらに背けながら言った。照れ笑いがチラリと見えた。俺の顔にも笑みが浮かぶ。

  志織が笑っていれば、いつでもどこでも俺の心は平和になれる。


  また二人きりの生存生活が始まる。まだ三年。イヤな事は脳みそで考えよう。楽しい事は心で感じよう。気分さえ良ければ俺は平和なのだ。その気分は志織によって決まる。


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