後味の悪い出来事。だが仕方ない。二ヶ月しか持たなかった平和な世界。
ゾンビはゾンビらしくあてもなく彷徨えと言うのか?
「やっぱり作るしかないのか」
俺は呟いた。そう。今まで平和な場所をずっと探していた。だが、作る事も出来る。平和な場所を作ればいい。
作るより探した方が可能性が高かったから探していただけ。平和な居場所は自分で作れるのだ。現に冬の旅館、学校や高級マンションも快適だった。
たくさんのゾンビが集まろうとも、俺には関係ない。志織さえ外に出なければ。三浦家だって、結局は外には出られない。自由な移動は制限される。それは刑務所だろうが、小さな離島や船だろうが同じ。
マンションに土を運べば栽培も出来る。
変なヤツにさえ会わなければ。
ゾンビはよほど甘く扱わなければ大丈夫なはず。人間も大勢でなければ。だがタオみたいなヤツ。それが問題だ。
歩き回るのは遭遇する可能性が高い。
「人気のないしなびたホテル。学校。高級マンション。どこがいい?」
俺は志織に聞いてみた。
「それだと高級マンションかな。やっぱり」
志織は普通に答える。哀しい感じでも怒ってる感じでもない。普通。ごく普通。いつもの志織。それだけで安心する。
「なるべく暖かい方がいいか」
俺の独り言。とりあえず目指すのは電車の線路。そこから大きな駅に向かえば行き先が分かるし、線路なら迷う事はない。
「やっぱ三浦家に居た方が良かったかなぁ」
俺は言ってみた。
「いつかは出るつもりだったからね。正直いいチャンスかなと思っていたわ」
志織の返答に俺は少し驚いた。出るつもりだったとは思ってもいなかった。平和が崩れたら出るのは分かるが。
「なんで?」
「ずっと平和な場所なんて無いと思ってるから」
シンプルな答え。もちろん俺もそう思ってはいるが、自分から平和を壊す必要はないと思ってる。
「ヒロはツトムさん達のとこに居たかった?」
志織が尋ねる。俺はどちらでもいい。志織さえ居れば。それが本音。
「志織さえ居れば」
思わず口に出た。
「私もヒロさえ居れば」
志織はそう言って顔を背けた。俺は志織の顔を見たかった。覗き込む。
「やめてよ」
と志織は顔をさらに背けながら言った。照れ笑いがチラリと見えた。俺の顔にも笑みが浮かぶ。
志織が笑っていれば、いつでもどこでも俺の心は平和になれる。
また二人きりの生存生活が始まる。まだ三年。イヤな事は脳みそで考えよう。楽しい事は心で感じよう。気分さえ良ければ俺は平和なのだ。その気分は志織によって決まる。
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