「私をどこかに連れてけとは言わない。きっとツトムさんは次の調達にヒロ君を連れてくわ。その時に私も行きたいの」
真剣な眼差し。これが何かの為の演技だったらたいしたもんだ。
「俺からは頼めない。ミズホさんからもう一度頼むんだ。ツトムさんから相談されたら、俺は連れてっても大丈夫だろう。と言う。それなら出来る。それでダメなら諦めるんだな」
ツトムさんを口説き落とす自信はある。正直、三浦家の子供や女達に危機感がないのはどうかと思っていた。ツトムさん達が居ない間にもし人間が来たら?そして略奪が目的だったら?そうなれば三浦家に居る人達だけで対処しなければならない。最悪、殺し合いになるかもしれない。危機感や緊張感がないとかなり厳しい。志織を任せられない。
物資の調達は満月の明るい夜に行動するはずだ。ゾンビは大丈夫だが他の人間も同じ事を思う。出くわしたら間違いなく取り合いになる。
リスクは高いが、やはり何度か経験はさせるべきだ。女、子供でも好戦的な人間にせめて気迫だけでも立ち向かえる位でないと。保守的、弱気を見せたら間違いなく負ける。
ミズホさんは、分かった。ありがとう。と言った。
「ねぇ、やっぱり大変だった?話したくない事は話さなくていいから、なんか話ししてよ」
ミズホさんは続けて言った。俺は病院の話をした。ゾンビの形態を知っても損はない。むしろ知っておくべきだと思う。
「ゾンビの事は皆にも教えてあげてね」
と俺は最後に付け加えた。普段の生活には役に立たないが、知っておくのと知らないのでは全然違う。俺も話した事で再確認出来たから話して良かったと思った。
「ねぇ、人間と争って…その、殺した事ある?」
おずおずとミズホさんは言った。
「俺達はまず逃げる事を最優先に考えるからね。だから争った事もないよ」
「もし、これから争う事があってどうしても殺さなきゃならない場合は?」
「俺は、俺と志織の命が最優先だから躊躇なく殺すよ。殺されるかもしれないけどね。でも仕方ない」
そう、俺の中ではゾンビも人間も同じ。いや、俺と志織以外はどれも同じだ。それは今までも、これからも変わらないだろう。それを目標にして生きてきたからだ。
「そっか。羨ましいな」
俺は首を傾げた。なんで?
「だってさ、ツトムさんは三浦家の為に私を大事にしてくれてるのよ。私を守るのは私だからじゃないのよ。でもヒロ君は志織ちゃんの為に守ってるんてでしょ」
なるほど。そういう見方があるのか。俺は志織を守るという俺が生きる目的の為に守ってる。もちろん志織は大事だ。赤の他人でも三年も一緒にいれば大切な人に感じる。でも俺の存在意義の為だとも思ってた。
志織を大好きとか愛してるとは違う。家族愛だ。だからかもしれないがツトムさんの気持ちがよく分かる。
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