ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.105

公開日時: 2021年3月12日(金) 08:09
文字数:789

小型飛行機に乗る。知らない二十人位のポピュレーターが乗っていた。誰もが薄赤く発光している。

俺達以外は同じカーキ色の戦闘服に軍用靴の姿。まるで一個師団の軍隊だ。


「言いたい事とかないのかよ」

トニが俺に言う。

「なんで赤く光ってるんだ?」

「ダビデのパーティクルを付けたんだ。グループの識別だな」

トニは騙した事の悪びれた様子はなかった。


皆と洞窟を拠点に楽しく過ごす。そこに未練は無い。やっと来た休暇が中止になり再び任務に戻された気分。

「他にも言いたい事あるんだろ?」

俺は首を振る。

「全て終わってから聞くよ」

本音だ。聞いたから、知ったからといって現実は変わらない。


冷凍の一口大のブロックが入ってる袋が配られる。人間の肉だ。抵抗はない。もし生きた人間を殺し冷凍し切り分ける現場を見てたら抵抗はあったと思うが。

牛のステーキや豚のハンバーグと同じ。力をつける為に。生きる為に食う。


飛行機の飛ぶ轟音の中、骨を噛み砕く音、咀嚼する音。誰も喋らない。

誰も興奮していない。恐怖に怯えてる者もいない。皆、淡々としている。


俺はふと思った。AZは残虐だと。ポピュレーターを減らす為にポピュレーター同士を殺し合いさせる。人間も減らすが、ポピュレーターも減らす。ポピュレーターが多くては都合が悪いのだろう。

だが、殺し合わなくても逃げ延びる選択もできる。この世界に居られる時間が増えないだけで。


ハチが蜜を採取する事と巣を守る事。アリも同じ。ポピュレーターも似ている。本能に忠実な部分。

人間は違う。個々の欲望で生きている。人間には、人間種の絶対なる役目はない。しいてあげるなら自分の欲望の為に生きる。


AZは違うパーティクル回収の方法も創れたはずだ。ポピュレーターを元に還す手段も他にも出来たはずだ。人間を脳硬化したようにポピュレーターも自然と還るように創れたと思う。


このように手間をかけたやり方を創った。何故だろうか。

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