ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.51

公開日時: 2020年12月22日(火) 07:53
更新日時: 2020年12月25日(金) 08:00
文字数:1,055

  ミズホさんが食べ物を持って来た。

「今夜からよろしくお願いします。ご迷惑をかけないように頑張ります」

  とミズホさんはいつもより丁寧に言った。緊張してるのかと、思ったが、志織の言葉を思い出した。俺は男好き。丁寧な言い方をしたのは俺から距離を置いたのだろう。俺は知らない事になってる。


「ミズホさんは食べたの?」と俺の問いに「緊張してるせいかあまり食欲がないの」と笑って言った。俺は渡された食べ物を差し出す。「先に食べとかないとやばいから」と言って。

  ミズホさんは断ったが「俺は食べない方が集中力が増すから食べたくないんだ」と言い、断られないよう、

「食べてる間に大事な事を話すよ」

  と付け加えた。ミズホさんは黙って受け取り食べ物を口に運んだ。


「危険な場所で大事なのは、慌てない事。慌てないようにするには、あらゆる想定をしとく事。高いとこから狙撃されてるかも。ピアノ線とか罠を張られていないか。転がってるゾンビがいるかもしれない。とかね。そんな馬鹿な。と思うような事が起きるんだよ。不意な事や、自分が考えてなかった事態に出くわすとパニックになる。それは自分だけじゃなく、他の仲間も危険に晒してしまうしね」

  ミズホさんはうなづく。

「他の人間に見つかる前に先に見つける。灯りで分かるし、分かってしまうから。そしてもし声をかけられても無視。それが助けを求める声でも子供でもね」

  ミズホさんの食べる手が止まる。

「ワナかもしれないんだ。それに助けられないんだ。どうしても助けたいなら、その場に食料を少し置いてく位。ただそれにもツトムさんや三浦家の合意が必要になる。第一は自分を優先。第二は三浦家を優先。その為に探しに行くのだから」

  ミズホさんは目を伏せていたがうなづいた。

「誰かが大怪我をしたり、ゾンビに噛まれたら、置いてく。だから絶対に無理や無茶な事はしないで欲しい。自分の出来る範囲の七割でいい。三割はいざという時に残しとくんだ」

  ミズホさんは神妙にうなづくだけ。少し怖がらせてしまったが、仕方ない。甘く考えるよりかは、臆病過ぎる位がちょうどいいはずだ。


「まぁ、滅多に全力で逃げたりする事はないから」

  とは言ったが俺は夜、歩き回る事はほとんどない。どれだけの人間が歩いてるのかは、一場所ごとしか分からない。ましてや今回はグループ行動。四人分の安全な場所の確保を考えなくてはならない。


  やるべき事。考えるべき事は山ほどある。

「腕に噛まれても大丈夫なように、何か硬い物を巻いといた方がいいかな。無ければいいけど」

  ミズホさんが帰る前に俺は付け足した。


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