ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.102

公開日時: 2021年3月9日(火) 08:16
文字数:1,061

音楽を聴きながら歩き続ける。途中の民家から座椅子と布団を手に入れ、志織の座席に引く。


島に着いてから一人として人間に出会わない。ポピュレーターにも。このまま一年がなんとか過ぎて欲しい。

不安を考えないよう楽しい事を想像する。

崖から海に飛び込んでみたい。サーフィンを覚えたい。海に映るオーロラを眺めていたい。スキューバもしたい。木の上の家を作りたい。ハンモックで本を読む。ギターも覚えたい。

その為に必要な物を考える。時間はいくらでもある。


夕暮れ。ヒグラシの声。カエルの声。そろそろ寝る場所探し。さっき通った部落に戻るか。野宿をするのか。


志織と二人きりなら安全のために早めに決めている。先ほど通った部落の民家の何処かに。

泊まりやすいポツンとある集会所。だが先を歩くトニはそこも通り過ぎる。


野宿をするのだろうか?俺は疑問を口に出さずに後ろを付いて行く。


立派な鳥居のある神社。そこでトニの足が止まる。階段が少し急で長い。これならゾンビはあがって来れないだろう。

荷車を置き、志織も階段を登る。階段を上がりきると神社と裏の岩崖に掘った祠。雑草だらけの畑にトマトやピーマンが自生していた。

「ここで」

とトニは言い、畑に向かい野菜を集め始める。俺達は荷物を神社の部屋に運ぶ。見た目から誰も踏み入れてない事が分かる。

家探し。携帯カセットコンロ。ガスもある。ロウソクも祭壇用の大きいのがある。トニが遊びで木魚を叩きニヤリと笑う。俺も笑った。


「なぁ、ヒロは神様や天国、地獄、死の世界をどう思ってる?」

パルが珍しく尋ねた。俺は木魚の前に祭壇。大きな鏡。貼ってある様々なお札を見渡す。

人間の信じてる神様は居なかった。人間を創り出したのが神様だとしたら、それはAZ。

AZの詳しい事は志織、トニ、パルから聞いた。AZは人間の願いを叶えない。ただ人間だけを作り自分の気に入った場所を守るだけ。

どこで産まれたのは分からないが、地球が壊れるまで居つき、退屈しのぎで人間を作り地球で自由に生かしている。


人間は、肉体という乗り物が壊れたら、AZの中に戻り、いつかまた個体として地球に現れる。

天国も地獄も存在しない。何も思わず考えない時間が死ならば、眠ってる時は死の時間。死の世界はAZの元へ戻るだけの事。

いや、ひょっとしたら、AZの世界が生で、離れた人間の時間が死の世界なのかもしれない。


「ヒロ」

不意にトニに声をかけられ振り向く。トニは刀を持っていた。それに気付いた瞬間、俺の視界に地面が見えた。

急速に意識が薄まる。視界の隅にパルが志織を担いでた。そこで意識が消えた。

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