翌日私は、町の中央にある警察署へと足を運んだ。
受付で、昨日の件をつたえ、署の2階へと通された。
そこには葉月ちゃんのパパがいた。今日はサングラスをしておらず、彼は意外とつぶらな瞳をしていた。
軽く挨拶を済ませると、奥の取調室へ通された。
取調室につくと、机を挟み向かい合って座った。
しかし改めて見ても堅気とは思えない風貌をしている。
「昨日はお疲れさん。おかげさまで一気にパクれそうだ」
葉月ちゃんのパパは上機嫌にいった。
「よかったです。あの……立ち退きの件はどうなるのでしょうか?」
私は今日一番聞きたかったことを聞いた。
「それなんだけどな。おそらく、なくなると思うぞ。まだニュースにはなっていないが、あくまで一企業がそういう団体を使って地上げをさせていたっていうのはどう考えてもまずいんだ。だから、今回問題になった場所をまた開発しようとするのは難しいだろ。マスコミもうるさいだろうし」
それを聞いて私はホッとした。
良かった。月見里さんはおばあちゃんとの思い出がつまったあの家を手放さずに済んだんだ。
早く彼女に教えてあげたい。
「よかったです。それだけが本当に心配だったので」
「そりゃあよかった。彼女も不安だろうから、これが終わったら教えてやんな」
それから葉月ちゃんのパパは調書を取り始めた。
30分後調書を取り終えた私は、葉月ちゃんのパパに改めて、お礼とお菓子を手渡して警察署を後にした。
それから私はすぐに月見里さんへ連絡した。
『お疲れ様。昨日は眠れましたか? 今日警察署でいろいろ聞いてきたんだけど、立ち退きの件はなくなるみたいです。だから安心してください』
するとすぐに返信が返ってきた。
『お疲れ様です。昨日は本当にありがとうございました。安心しました。神田さんのおかげで、おばあちゃんとの思い出を失わずに済みました。本当にありがとうございました。それと今日、少しお話があります。お待ちしております』
安心してくれたようでよかった。しかし、話があるとは何だろうか?
私はもやもやしながらお昼ご飯を食べに商店街へと向かった。
私はお昼ご飯を食べ終わり喫茶店で、スマホをいじりながらコーヒーを飲んでいた。
すると、倉橋さんから連絡が入った。
『お疲れ様です! 窓の外を見てください!』とだけ連絡がきた。
言われるがまま窓の外を見ると、そこには倉橋さんがいた。
彼女は店内に入ってきて、私の前へ座った。
「先輩こんにちは!お邪魔してもいいですか?」
「いいよ。ここで会うなんて偶然だね」
彼女は微笑み、
「そうですね! 運命を感じちゃいますね!」といってきた。
随分とキャラが変わったものだなと思いながらも、この明るく人懐っこい感じは嫌いではなかった。
そこからまた他愛もない話をし、そろそろいい時間になっていた。
彼女が切り出した。
「あの……急なんですけど、これ一緒に行きませんか?」
そう言って彼女はスマホの画面を見せてくる。
そこにはプラネタリウムのポスターが表示されていた。
ポスターには、『満天の星空コンサート』と書かれていて、どうやらプラネタリウムを見ながらオーケストラのコンサートをするようだ。
「もともと、友達と行こうとしてたんですけど、その子が急に来られなくなっちゃって……それで、今日の夜18時からなんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」
講座が終わるのが、大体17時なので間に合いそうだ。
「いいよ。自分でよければ」
彼女の表情がぱっと明るくなり、私は彼女と18時に駅前へ集まることになった。
その後彼女と別れた私は、講座を受けるべく月見里さんの家へと向かった。
今日も門を開け、玄関のドアをノックする。
「はーい。今行きまーす」
そういって彼女が玄関の扉を開けた。
彼女の姿に少し違和感があった。それは彼女が今日は着物ではなく私服だったからだ。
思わず私は尋ねる。
「今日は着物ではないんですか?」
彼女はいつも通りに、
「はい。実は今日は諸事情があって、私服なんです」
「そうなんですね。お忙しいようであれば、明日また伺いますよ」
「いえ、大丈夫です!気にしないでください。さあ、こちらへどうぞ」
そう言って彼女は、私を講座の部屋へと誘導した。
席に着くと彼女は改まって、
「神田さん。今回は本当にありがとうございました」
そういって深々と頭を下げた。
「いえ、気にしないでください。私も月見里さんの大事なものが、無くならなくてよかったです」
彼女は私の顔を見てにっこり微笑むと、
「実はお話がありまして、明日、神田さんに会わせたい人がいます」
そう言った。
「会わせたい人……ですか。私は別にかまいませんが、どういった方なんですか?」
「以前お話したことがあるかもしれませんが、私のお師匠様に会っていただきたいんです」
月見里さんの師匠といえば、確かアマテラスの再来という異名を持つ方だったと思うが、いったい私をその師匠と会わせてどうするつもりなのだろうか?
「私は構いませんが……どうしてですか?」
「お師匠様に神田さんのお話をしたら、私にも会わせろと言われてしまって……」
アマテラスの再来は大分豪快な人なんだなと思った。
月見里さんはフォローするように、
「あの、すごく優しくていい人なんです!それに、未来も過去も見えるようなすごい方なので、私のラッキーアイテム以上にいいアドバイスをくれると思います!」
ここまで必死に言われると、従わざるをえない。
「わかりました。明日ですね。お師匠様にお会いしますよ」
そう私が言うと彼女の表情は明るくなった。
正直なところ、あの月見里さんがそれほどまでもすごいという師匠に実際会ってみたい。
怖いもの見たさというか、好奇心が私の中で高まっていた。
「そうしましたら、明日の朝9時に私のうちに集合でお願いします。それじゃあ、今日の講座を始めていきましょうか!」
それから講座が始まり、2時間ほどが経過した。時計は17時を指していた。
「では、今日はこの辺にしておきましょう。でも神田さん少しづつタロットカードを覚えてきましたね!」
「そうですね。やっぱり月見里さんの教え方がうまいからですかね。」
「そ、そんなことないですよ!でも、ありがとうございます」
彼女は優しい笑顔を見せた。
その後彼女は私を見送るといい、2人で玄関まで歩いた。
玄関に着き靴を履き、彼女のほうを見ると、
彼女は痛そうに胃のあたりを押さえていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。最近胃が痛くなるんですよね」
「ストレスでも胃は痛み出したりもしますから」
「確かにここのところ、立ち退きの件でストレスが溜まっていた気がします」
私たちはお互いに微笑みあって、別れた。
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