うるさい!
私は爆音で目を覚ました。
時計を見ると夜の12時過ぎ。また上の階の住人がギターを弾いている。
最近のちょっとした悩みはこの爆音である。
私が住んでいるのは、築12年の2階建てアパートで、各階3部屋づつあり、
そのアパートの1階中央の部屋、102号室が私の部屋だ。
この爆音の主は、私の部屋の真上202号室の住人で、最近越してきたばかりなのだが、とにかくうるさい。
おそらく学生かミュージシャンなのだろう。
防音が完ぺきなアパートではないので、正直気が付いてほしい。
隣の部屋であれば、壁ドンするのだが上の階となると、直接文句を言いに行くほかない。
つい目がさえてしまい、そこからだらだらと携帯をいじりつつ、気が付けば眠っていた。
目を覚ますと、時計は13時を指していた。
とにかく気になるのはあの占い師の少女の占いが本物かどうかということだ。
『ラッキーアイテムはバール』という言葉を鵜呑みにして行動した結果、一人の命が救われた。
これはたまたまなのか、それとも予言なのか。
私はそれを確かめるため、翌日再び占い師の元を訪ねた。
昨日同様門を強めに押し、再び敷地内に入り、玄関扉をノックする。
「はーい。今行きまーす!」
ドタドタという足音が徐々に近づき、勢いよく扉が開いた。
「お待たせしました!ご用件は何でしょ……あ……」
出てきた少女は、近くの高校の学生服を着た昨日の占い師であった。
彼女は私を見つめたまま口を開き数秒固まった後、扉を勢いよく閉めた。
私もあっけに取られて数秒固まってしまったが、その後扉越しに声をかけた。
「あの、すみません。占いを受けに来たのですが。」
「少々お待ちください!今準備してきます!」
ドタドタという足音が遠ざかっていくのが扉越しに聞こえてくる。
私はとりあえず待つことにした。
すると再びドタドタという足音が近づき、
「すみません。あと10数えたら、昨日の部屋の前でお待ちください!」
言われるとおりに心の中で10数えてから、扉を開け昨日と同じ部屋の障子の前で待つことにした。
私が待ち始めてから10分が経ったころ中から声が聞こえた。
「お待たせしました。お入りください」
私は障子を開き中に入る。
昨日と同様に、白い着物を着た少女が部屋の中央で三つ指を立て座っていた。
私は彼女の前に置かれた座布団に正座し、お辞儀した。
そして顔を上げ、彼女が話し始める。
「昨日のラッキーアイテムは当たりましたか?」
微笑みながら彼女は尋ねてきた。
「はい。おかげ様で一人の命が救われました」
彼女は安堵した表情を見せた。
これは間違いない、彼女は本当に未来が見えるタイプの占い師だ。
私は核心に迫ることにした。
「単刀直入にお聞きしますが、先生は未来が見えるのですか?」
「私には何でもお見通しですから」
そう言った彼女の眼には自信が宿っていた。
しかしここで一つ疑問が浮かぶ。
本当にお見通しであれば、どうしてあの後私が火災現場に鉢合わせることをズバリ言わず、
あくまでラッキーアイテムとしてのみ私に伝えたのだろうか。
「しかしなぜ、ラッキーアイテムという形で私に伝えたのですか?直接言っていただいたほうが、より行動しやすかったと思うのですが」
彼女は少し困った顔をし、
「えっと……それは……」と言いよどんでいる。
私は彼女の言葉を待った。
「……それはともかく、今日はまた占いをご希望でよろしいですよね?」
あからさまにはぐらかされた。どういうことだ?理由を答えればそれで済むのではないのか?
「占いをしてもらいに来たのですが、先ほどの問いは……」
「今日のあなたのラッキーワードは桃太郎です。今日は団子を買って帰ってください」
「いえ、先生!どうしてラッキーワードなのですか?今日はいったい私の身に何が起こるのでしょうか?それに桃太郎とはいったい?」
彼女は少し俯きながら、
「えっと……あ!そのほうが楽しみが増えていいと思うので!とにかく団子を買って帰ってください!」
強気だ。そして確実に今思いついたであろう理由を私にぶつけてくる。しかも何が起こるのかは教えないが、団子を買って帰れという。しかしラッキーワードの桃太郎とはいったいなんなのだろうか。謎が謎を呼ぶが、しかしこんなに強気に言われてはもう何も言えない。
それに私は占いを全て信じて生きることに決めたのだ。聞きたいことは山ほどあるが、ここは引き下がろう。
「……わかりました」
そう言って私は財布から1万円を取り出した。
「ありがとうございます。でも今日は5千円で大丈夫です」
「あれ?一万円ではないのですか?」
彼女は少し得意な顔をして、
「リピーター割引です!」
そういうシステムがあるのか、と私は思いながら彼女に5千円手渡した。
「明日もお待ちしております」
彼女は笑顔でそう言った。
屋敷を後にした私は自転車に乗りながら先ほどの事を思い返していた。
彼女にはおそらく未来が見えている。しかし何が起きるのかは教えられない。これはいったいどういうことなのだ?そんな事を考えながら、商店街にある昔ながらの和菓子屋に立ち寄った。
中に入ると店番をしているおばあさんに話しかけ、団子をとりあえず6つ購入した。
流石にキビ団子は売っていなかった。
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