10度目の転生なので全部占いに従ってみた

ハシダスガヲ
ハシダスガヲ

公開日時: 2021年1月30日(土) 20:00
文字数:3,982

そこから特に話もせず、月見山さんの家に着いた。

すると門の前に昭和のチンピラを彷彿とさせるどぎつい赤色の柄シャツを着た男が貼り紙を貼っていた。


私は少し離れた塀の角に月見里さんを待たせ、男に声をかけた。

「何してるんですか?」

男はこちらを睨みつけ、「ああ?」と言った。

男の顔を見て私は驚いてしまった。


この男は、私と倉橋さんの通っていた高校の問題教師、森野先生だったのだ。

以前は倉橋さんに嫌がらせをしているとこを私が止めに入り、彼の暴言を録音したものを提出して彼は学校からいなくなっていた。おそらく再就職先もうまく見つからなかったのだろう。こんなことをしているとは、人生は残酷なものだ。


森野もこちらに気がついたようで、ゆっくりと私に歩み寄り、

「おお、誰かと思えば神田じゃねえか。久しぶりだな。元気にしてたか!」というと、私の肩を突き飛ばした。

さらに森野は私の胸ぐらを掴み怒鳴った。

「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!お前にはいつかお礼に行こうと思ってたけどよ、ちょうどよかった。ここでしこたまお礼してやるよ!」

森野が腕を振り上げ、私を殴ろうとする。


そこへ私の後ろから声がかかった。

「やめて!その人を離して!」

私と森野は驚き、声がする方を見る。

そこには、遠目から見ても震えているのがわかる、怯えた様子の月見里さんがいた。

森野が驚いた瞬間、私は森野の手をほどき距離を取った。


森野は月見里さんの方を見ながら、

「おやおや、これは月見里さんのお嬢さんじゃないですか。そろそろここを立ち退いてくれませんかね?」

月見里さんは怯えて何も言えない。

すると森野の怒号が響いた。

「聞いてんのかこら!とっととここから出てかねえとさらっちまうぞこの野郎!」

月見里さんの表情は恐怖に固まり、泣き出してしまった。


まずい。このまま彼女に被害があってはいけない。

そこで私は、森野の標的を私にするべく、

彼を睨みつけながら、

「おい、いい加減にしろよ。先生をクビになったと思ったらこんなことをやってるのか。本当にどうしようもない奴だな」

と言った。


森野は私を睨みつけ、

「クソガキが。生意気な口きいてんじゃねえぞ!」

ここまではうまくいったが、森野は再び私に歩み寄り、

「そのへらず口が二度と聞けないようにしてやるよ!」

といい森野は私を殴った。

私の左頬に衝撃が走る。

私が後ろに少しよろけると、彼は私の胸ぐらをつかみもう一発殴ろうとした。

この後この場をどう収めようか必死に考えていると、次の瞬間、大きなクラクションが鳴り、黒塗りのクラウンが現れた。


森野はクラウンの方を向き、

「うるせえ!邪魔するんじゃねえ!」と怒鳴った。

するとクラウンから、大柄な体格でスキンヘッドにサングラスをした男性と、

長身で時代錯誤なパンチパーマを当てた男性が降りてきた。

私は、別の組の人間が現れたのだと思った。


スキンヘッドの男性は、私と森野の元へ駆け寄り、私の胸ぐらをつかんでいる森野の手を引きはがすと、そのまま地面へと叩きつけた。

私があっけに取られていると、男性は私のほうを見てにっこり微笑み、

「これで、借りは返したからな。」といった。

私はこの男性に見覚えがある。何を隠そうこの男性は、隣の部屋に住む葉月ちゃんのパパだったのだ。

しかし私はあまりの驚きで、あわあわしてしまった。

地面に叩きつけられた森野は、逃げようとするも、もう一人のパンチパーマの男性によって押さえつけられた。

そうこうしているうちにパトカーのサイレンが近づいてきた。


私は葉月ちゃんのパパに尋ねた。

「あなたはいったい何者なんですか?」

すると葉月ちゃんのパパは優しく微笑み、ジャケットの内ポケットから警察手帳を取り出して、私に見せながらこう言った。

「俺は警察官だよ。マルボウだ」

全てがつながった感覚がした。


それから葉月ちゃんのパパは今回の事を話し始めた。

「もともとは葉月から聞いたんだ。兄ちゃんが落ち込んでるってな。それで話を聞いてみたら、立ち退きの話をしたんだ」

私の頭の中に、機能の葉月ちゃんとの会話が蘇った。

『大丈夫!葉月が何とかしてあげる!』

月見里さんの占いはよく当たる。

葉月ちゃんは本当に私のラッキーヒューマンだった。


葉月ちゃんのパパは話しを続けた。

「うちが今追ってるのがちょうどこの月見里家の地上げの件でな、面倒な連中が絡んでるって話が上がってたんだが、こいつらも頭を使いやがるから、どうにも現場を押さえられなかったんだよ」

「……そうだったんですね。でもどうしてここがわかったんですか?」

「実はついさっき、近所の男性から交番に通報があってな、ヤクザに襲われてる人がいるって」

私は電話の主が鞍馬だと気が付いた。

「それで、もともと警戒のためにこのあたりをパトロールしてたんだ。だからすぐに駆け付けられた。ただ一発もらってるみたいだな……すまんな」

「いえ。それは全然大丈夫です。見た目ほど痛くないですし」


少し離れたところから森野の怒鳴る声が聞こえた。

「俺が何をしたってんだ!証拠はあんのか!」

相変わらず往々際の悪い奴だ。

そこへ鞍馬が現れ、

「あるよ。君の犯行は一部始終録画しておいた。こいつでな」

といってスマホを取り出した。

流石は鞍馬だ。抜かりがない。

こういう所はきちんと探偵らしいと思うが、やはり言い方が相変わらず鬱陶しい。


そして彼は、葉月ちゃんのパパへそれを見せた。

「さっき通報してくれたのはあんただな? おお、よく撮れてるじゃねえか!」

と葉月ちゃんのパパは言い、森野に近づいて彼の胸ぐらをつかむと、

「これで証拠は十分だな。使用者責任で一気にトップまでパクってやっから楽しみにしとけよ!」

とほくそえみながら言った。

森野の顔はみるみる青くなっていく。

これで森野も終わりだろう。


すると突然背後から衝撃を感じた。

そちらを振り向くと、月見里さんが泣きながら私に抱き着いていた。

私は突然のことで慌ててしまった。

彼女に声をかける。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

彼女は私に抱き着いたまま顔をこちらに向け、

「だ、大丈夫ですかはこっちのセリフです! なんて無茶するんですか!」

そしてボロボロと大粒の涙を流しながら、

「……本当に。本当に心配したんですから……神田さんが死んじゃうんじゃないかって……」

そこまで言うと、彼女は再び私に顔をうずめ泣き出した。


そこへ警官が来て、

「あの……お取込み中すみません……後で調書を取りたいので、署のほうへ来ていただけますか?」

「わかりました。あの、一応これ病院とか行ったたほうがいいですよね?」

「そうですね。病院に行っていただいて、調書は明日でもいいので、よろしくお願いします」

そういって警官は立ち去って行った。


ひとまず私は月見里さんを引きはがし、葉月ちゃんのパパと鞍馬にお礼を言い、

月見里さんの手をひいて家に入った。

玄関を上がり、突き当りを今日は右に曲がり今まで入ったことがない洋室についた。

大きめのテーブルに二人掛けのソファー、テレビなどが置かれており、どうやらここがリビングの様だ。

私は月見里さんを中央に置かれたソファーに座らせた。

やっと落ち着いてきたのか、彼女は泣き止んでいた。


彼女は立っている私を見上げると、自分の隣の席をとんとんと叩き、ここに座れとアピールしてきた。

言われるがまま、私は隣に座った。

そして彼女は話し始めた。

「あの……さっきはありがとうございました」

彼女はうつむきながらそう言った。

「いえ、月見里さんが心配だったからつい……逆に心配させちゃいましたね」

と私は微笑みながら言う。

「本当ですよ……まったく。本当にすごく心配したんですからね。もうあんな無茶はしないって誓ってください」

そう言って彼女は私に右手の小指を突き出した。私は、自分の小指を彼女の小指に絡め、指切りをした。

すると彼女は少しいたずらな笑みを浮かべ、

「約束ですからね」と言った。

私はその表情にドキッとしてしまった。


気を取り直し、私は彼女に話し始めた。

「多分ですけど、これで立ち退きの話はなくなったと思いますよ。それにもしまた何かあれば、警察も動いてくれると思います。それに私が一緒にいますから安心してください」

彼女は顔を赤らめて、

「……ありがとうございます」

と小さく言った。

そこから少しの間、私たちは黙ったままだった。

しかしこの沈黙は気まずくなかった。


ふと時計を見ると、16時40分を指していた。

私は彼女に、

「そろそろ病院が閉まってしまうので行きますね。また明日来ますから、よろしくお願いします」

と言った。

彼女は「お待ちしてます」といい、私をソファーから見送った。


私はそれから急いで病院に行き全治二週間の診断書をもらった。

病院の隣にあるコンビニで、葉月ちゃんと葉月ちゃんのパパへのお礼のお菓子を買い家へと向かった。

家に帰りながら、今日の事が頭の中を駆け巡り、私は気が付いてしまった。

私は月見里さんの事が気になり始めているようだ。

占い師としての能力ではなく、一人の女性として彼女が気になり始めている。

しかしそれと同時に今までの人生で起きたことがよみがえってくる。


私は1度目の人生の、妻の事を思い出した。

彼女とは高校の同級生で、同じ大学に進み大学2年生の時に付き合い始めた。

生まれて初めてする告白は、えらく緊張しぎこちないものだった。

お互いに大学を出て、就職しそれから二年ほど経って同棲をはじめ結婚した。

25歳の時の事だった。

それから子宝にも恵まれ、大変だったが幸せな時間を過ごした。

それでも終わりは必ず訪れるのだ。

私はそれが恐ろしくて仕方がない。

だからこそ、それ以降は、人との距離には特に気を使っていた。

別れるのがつらいのなら、はじめから近づかなければいい。

それが私の答えだった。


しかし、今その答えが揺らぎ始めている。

私は彼女の事が好きなのだろうか?

答えはまだ見つからなかった。

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