私は今日学校を休みました。
どうしても気になることがあるからです。
アマテラスの再来こと、私とおばあちゃんのお師匠様に神田さんのことを聞いてみようと思います。
私の力では、神田さんの過去の事をそこまで見ることができませんし、未来の私と神田さんの事も断片的にしか見ることができないからです。
お師匠様の家は、私の家から自転車で30分ほど行った山の中にあります。
そこには本当に古くからある神社があり、そこにお師匠様は住んでいます。
私は、お師匠様の家に向かう道中もずっと神田さんの事を考えてしまいました。
神社のある山のふもとにつくと、私は自転車を止め、大きな鳥居をくぐり石段を登っていきました。
ここはいつ来ても本当に静かで、私はこの空気や雰囲気がとても好きでした。
石段を登りきり、小さな鳥居をくぐると正面には大きな本殿があり、向かって右側に小さな社務所があります。
この社務所がお師匠様の家です。
まずは参拝しようと本殿の前に立ち、お賽銭を入れ、大きな鈴を鳴らします。
二礼二拍手一礼をし、後ろを振り向くと、そこにはお師匠様がいました。
「ひ!」と驚きの声を上げると、お師匠様は笑いながら、
「千歳久しぶり! 大きくなってないなあ!」といいました。
お師匠様は、私とあまり背丈は変わらず、巫女装束を身にまとい黒髪をツインテールにした子供のような顔つきの、年齢不詳の方でした。
「お師匠様、お久しぶりです。今日は……」
そこまで言うとお師匠様が、
「ああ、彼の事ね。千歳が今日来るのが見えてたから先に見ておいたよ」
流石と言わざる負えません。アマテラスの再来という異名は伊達ではないのだなと思いました。
「お師匠様は本当に何でもお見通しですね……」
私がそう言うと、
「そんなことないよ。私は未来と過去が人よりちょっと見えるだけで、相手が考えてることとかはわからないもん」
と笑顔でいいました。
お師匠様は、「とりあえず家で話そう!」
と私の手を引き、私とお師匠様は社務所の中へ入りました。
社務所の玄関を上がると、正面の客間に置かれた平机の上にお茶と平机を挟んで座布団が用意されていて、私は入り口側の席に座りました。
私の正面にお師匠様が腰かけ、
「早速本題なんだけど……」と話し始めました。
お師匠様はニヤッと笑うと、
「彼は何者だと思う?」と私に問いかけました。
私が今回一番聞きたいのは、お師匠様が言った通り、神田さんが何者かということです。
「神田さんは、いったい何者なんですか?」
私が問いかけると、お師匠様は少し間を開けて、
「……わからない」といいました。
神田さんが何者かということよりも、あのお師匠様がわからないといったことの方が驚きでした。
「お師匠様でもわからないことがあるんですね!」と言うと、
「そりゃそうだよ! 私は別に神様じゃないし!」と笑いながら言いました。
「というよりも、彼の過去を遠隔で見ても正直いろんな情報が多すぎて何が何だかわからないって感じなんだよね」
そう言ってお師匠様は右手で頭をかきながら、いやーまいったまいったと言いました。
「そうなんですか……」私が少し落ち込んだそぶりを見せると、お師匠様が切り出します。
「だから今度さ、直接連れてきてよ! デートとか言ってさ!」
「で、デートですか! それはちょっと……」
私は自分でも顔が真っ赤になっているのがわかるほど恥ずかしくなってしまいました。
そんな私を見てお師匠様は、「千歳はウブだなー!」と言って笑っています。少し意地悪です。
「でもさ、千歳がこんなに誰かの事を気にするのって初めてじゃない?」
「そうでしょうか……」
「そうだよ。いつもの千歳ならわからないことはわからないでほっとくじゃん! だから少しうれしいんだよね」
「……何がうれしいんですか?」
お師匠様はにやっと笑って、
「千歳が恋してるなってさ!」
「こ、恋! ち、ちがいます! そういうわけではなくて!」
突然お師匠様が恋などと言い出すので、私はさっきよりも自分の顔が赤くなっているのがわかりました。
「でもさー、見たんでしょ?はじめて彼にあった時に」
そうなのです。今日お師匠様に聞きたかったことがもう一つありました。
それは、初めて神田さんに触れた時に流れ込んできた未来の映像。
具体的に言うと、私が神田さんに「君とこの人生を過ごしたい」とプロポーズされる映像でした。
私は今まで誰かを好きになったことも、もちろん誰かと付き合ったこともありません。
もちろん神田さんとそんなことになるとは思えなかったのです。
だからこそ、今日はお師匠様にあの時の未来の映像は本当なのかどうか聞きたかったのです。
私はお茶を一口すすると、
「そうなんです。あれは本当に起きるのでしょうか!」と聞きました。
「そうだよ」とお師匠様は軽く言います。
お師匠様のそぶりに私は少し拍子抜けしてしまいましたが、それと同時に顔がまた真っ赤になっていくのを自分でも感じました。
お師匠様は、私の目を見て微笑みながら、
「だからさ、連れてきてよ! 千歳の事は小さいころから見てるけど、どこの馬の骨ともわからな……というか何者かわからない奴に千歳はやれないじゃん? だからさ、一回見ておきたいんだよね、彼の事」
「……ありがとうございます」
私には血のつながった肉親はもういませんが、唯一家族と呼べる人がいるとすればこのお師匠様です。
本当に優しく、私の事を気にかけてくれる、おばあちゃんのようなお母さんのような存在なのです。
私は思わず泣きそうになってしまいました。
それを見たお師匠様が、「千歳はすぐ泣く、泣き虫だからなー」と笑いながら言いました。
「もう!」と私は笑いながら言いました。
それからお師匠様と最近あったことなどを話し、いい時間なのでそろそろお暇しようとすると、
お師匠様が急に真面目な顔になって私に言いました。
「千歳にあんまりよくないことがいくつか起きるけど、その時は私じゃなくてまず彼に頼ってみてね。その方がすんなり解決するから」
私は突然のことで驚き、
「え?よくないことって何なんですか?」と尋ねると、
お師匠様はニヤッと笑いながら、
「それは秘密!そのほうが楽しみが増えていいでしょ!」と笑いながら言いました。
「よくないです!」と私が食い下がりましたが、早々に返されてしまいました。
お師匠様の家を出て私は家に戻りました。
時計を見ると、そろそろ神田さんが来る時間になっていました。
私は着物に着替え、神田さんを待ちました。
お読みいただきありがとうございます!
感想等々よろしければお願いします!
ツイッターもやっておりますのでよろしければご覧ください。
https://twitter.com/hashidareal
読み終わったら、ポイントを付けましょう!