10度目の転生なので全部占いに従ってみた

ハシダスガヲ
ハシダスガヲ

公開日時: 2021年1月30日(土) 10:50
文字数:4,072

それから老婆がやってきて、

「先生の準備ができたようなので、いつもの部屋でお待ちください」

と私に伝えた。

私は玄関を上がりいつもの部屋の前で待つ。

すると中から声をかけられた。

「中へお入りください」

障子をあけ中に入ると、簡易的な折りたたみ机を挟んで向かい側に、着物を着た彼女が座っていた。

彼女の前に置かれた椅子に腰かける。

彼女は笑顔で、

「今日は講座をご希望ということで、ありがとうございます。何かきっかけがあったんですか?」

と尋ねてきた。

「今まで見ていただいていて、先生の力が本物だと思ったので、受けてみようと思いました」

「ありがとうございます!今更ですが、自己紹介しますね。私は、月見里千歳と申します。占い師をしてます。」

「私は、神田宗介といいます。投資で生計を立てています」

投資で生計を立てているというと、大概の人は驚くのだが、彼女は驚くこともなく続けた。

やはり彼女には未来が見えているのだ。


「それでは神田さん。まずあなたに合った占い方法をお伝えしますね!」

そう言って彼女はおもむろにタロットカードを取り出した。

タロットカードか。なるほど、これを使って占うのが私には合っているのだな。

私の頭の中には、タロットカードを使い占いをしている自分の姿が浮かんだ。


すると彼女はにっこり微笑み、

「神田さんに合っているのは、タロットぶつけ占いです」

ん?タロットぶつけ占い?どういうことだ。

一般的なタロット占いは、タロットカードを混ぜ、それを引き、書かれている絵柄から占うのではないのか?

私はあっけにとられつつも、

「……先生!あの、タロットぶつけ占いとはいったい何なのでしょうか?タロットカードを引いて占う方法とは違うんですか?」

彼女はさらに笑顔のまま、

「タロットぶつけ占いは、カードを引いたりしません。これだけだとわからないと思いますので、実際にやって見せますね!」


そう言って彼女は立ち上がり、私にタロットカードの束を投げつけてきた。

痛い!なんなんだ、この占い方法は!ふざけているのか?

私に投げつけられたタロットカードは、私をバウンドし、ひらひらと床に散らばった。

その中に1枚だけ表向きになったカードがあった。

彼女はそれを手に取り、

「なるほど。愚者のカードですね」

と、真剣な顔をして考え始めた。

え?これ本当にこの占い方なのか?占い師が商売道具であるタロットカードを客にぶつけて占う方法など聞いたこともない。


「今日のあなたのラッキーフレーズは、『おまかせで』です。それと、誘いには必ず応じてください」

「……あの!先生!すみませんが、まだ理解が追い付きません!少し説明していただいてもよろしいでしょうか!」

彼女ははっとした顔をしてから、

「あ!すみません。突然で驚きましたよね。それではタロットぶつけ占いについてお教えしますね」

そう言って彼女は、タロットぶつけ占いの説明を始めた。


「タロットぶつけ占いは、中世ヨーロッパで流行った占い方法で、由緒ある占い方法なんです。ただ、カードの消耗が激しい、カードを無くす可能性が高い、お客さんとのもめごとに発展しやすいなどの理由から衰退し、現在ではあまり知られてはいません」

流石にこんなコストとリスクのある占い方法は厳しい。実際にやるとしても、もめごと覚悟でやらなくてはいけないというのは、いかがなものだろうか。もしほかの方法があるならそっちに切り替えたい。

「……あの、すみません。私はこの占い方法でないとダメなのでしょうか?」

「ダメです。これ以外の占い方法は神田さんには向いていません。やっても当たりませんよ」

彼女はきっぱりと私の申し出を断った。これで、私にはタロットカードぶつけ占い以外の選択肢がなくなったのであった。


「じゃあ、一度やってみましょうか!」

そう言って彼女は、床に散らばったカードを拾い集め、私に手渡した。

「それでは、そのカードを良くシャッフルしてください」

言われるがまま、私はカードをシャッフルした。

「次に、相手が占って欲しいことを聞きます」

私は戸惑いながらも、

「……えっと、先生が占って欲しいことは何でしょうか?」

そう尋ねた。

彼女は、んーと右手の人差し指を顎に当てながら、

「今日の私の晩御飯は何か占ってください!」

変化球すぎる!普通、今悩んでいることがあり占いを受けるはずだ。

確かに一人暮らしをしていると、晩御飯はどうしようか迷うのはわかるが、

果たしてそれをタロットカードで占うことができるのだろうか?


「……わ、わかりました。あの、このタロットカードを先生にぶつけるんですよね?」

「はい!躊躇はいりませんので、思いっきりぶつけてください!」

私は右手にタロットカードを持ち、腕を振り上げた。

……いや、無理だろ!なんなんだこの状況は!

着物を着た小柄な女子高生占い師に、22歳男性がタロットカードの束をぶつけるという異様な状況だ。

しかし、先生は目を輝かせながら私がタロットカードをぶつけるのを待っている。

……もう仕方がない。思いっきりではないまでも、軽くぶつけることにしよう。

「では、行きますよ」

「はい!ばっちこいです!」

私は彼女にタロットカードをぶつけた。

そして彼女を肩付近をバウンドして床にカードが散らばった。

彼女はカードがぶつかった瞬間小声で「いたっ」っと言っていた。

罪悪感が半端ない。


そして彼女は、散らばったカードの中から、表向きになった1枚のカードを拾い上げた。

そしてそれを私に見せ、

「このカードを見て思い浮かぶ、私の今日の晩御飯を言ってください」

見せられたカードには、ランプと杖を持ち、紫色のローブをかぶる老人の絵が描かれていた。

いやいや、これで何と言えばいいんだ?正直分からない。

しかし彼女は変わらず嬉々とした表情を浮かべ、私の返答を待っている。

仕方なく私は、

「……えっと、煮物?」と答えた。

彼女は笑顔になり、

「煮物ですか!やった!私、煮物大好きなんです!」

と答えた。

もうこの状況への理解が完全に追いつかない。

しかし彼女が喜んでいるので、それでいいと思った。


彼女は再び床に散らばったカードを拾い集め、私にタロットカードを手渡した。

「それでは、このタロットカードはお渡ししますので、肌身離さず持っていてください」

「……わかりました」

「今日はこの辺にしておきましょう。次回からは、タロットカードの絵柄や意味などをお伝えしていきますのでお楽しみに」

占い方はさておき、習い事というのは楽しいものかもしれないと私は思った。


「次回なんですけど、いつ空いてますか?」

私は、スマホを取り出しスケジュールを確認した。といってもほぼ毎日暇なようなものだ。

「いつでも大丈夫です」と答えた。

すると彼女もスマホを取り出し、

「……それじゃあ、明日でいいですか?明日の同じ時間にまた来てください!」

「わかりました」

これで次回の予約が確定した。


続けて彼女は、

「そしたら連絡先交換しましょう!わからないこととか、予約の変更とかあればこれでやり取りできるので」

「そうですね。わかりました」

そして、私と彼女は連絡先を交換した。

「先生、今回のお代はいくらになりますか?」

「んー……タロット代含めて1万円です!」

今思いついたように彼女は答えた。

不思議なもので、タロットカード込みだとちょっとお得な感じすらする。

そして私は、言われるがまま財布から一万円取り出し彼女に渡した。

彼女は笑顔で、

「ありがとうございます!」と答えた。

彼女は、はっとした顔をして、

「そうだ、神田さんの今日のラッキーフレーズは『おまかせで』です。それと、誘いには必ず乗ってくださいね!」

「わかりました。占いまでしていただいてありがとうございます」


そういって彼女と別れた私は、部屋を出て玄関まで歩いていく。

その途中、とてもいい匂いがした。

そして奥から月見里さんの声が聞こえた。

「あー!キヨさんありがとう!今日も晩御飯作ってくれたの?」

私は先ほどの占いの結果が気になり、少し聞き耳を立てた。

「いえいえ、先生にはいつも良くしてもらってるから、これぐらいさせてください」

キヨという女性は、おそらくいつも出迎えてくれる老婆の事だと声から判断した。

「今日の晩御飯は……やっぱり!煮物だ!」

私の初タロットカードぶつけ占いは見事に成功したようであった。


屋敷を後にして私は晩御飯を買うため商店街へとやってきた。

不思議と私も煮物が食べたくなっていたからだ。

商店街の総菜屋で煮物を買い、私は家へと戻った。


家に戻り、私はご飯を炊いて夕食を済ませた。

シャワーを浴びて出てくると、スマホに連絡の通知が来ていた。

占い師の月見里さんからだった。

『こんばんは!今日は講座を受けていただいてありがとうございました!神田さんに占っていただいた通り、なんと!晩御飯は私の大好きな煮物でした!神田さんには占いの才能があるみたいです!明日もお待ちしております!』

私は思わず微笑んでしまった。

そして軽く返事を済ませて、受け取ったタロットカードを眺めながら、今日あったことを思い返していた。


すると再びスマホが鳴った。

月見里さんかと思い、携帯をみると、今日久々に再会した、後輩の倉橋さんからだった。

『先輩お久しぶりです。少しお話がありますので明日お時間ありますでしょうか?』

久々に再開したばかりだというのに、いったい何の話だろうか。

適当な理由をつけて断ろうかと思っていたが、月見里さんに言われた今日の占いを思い出した。

『神田さんの今日のラッキーフレーズは『おまかせで』です。それと、誘いには必ず乗ってくださいね!』

私は占いに従って『おまかせで』と送信した。

返事としては、間違っている気もするが。


するとすぐに返事が来た。

『わかりました。そうしましたら、明日の12時駅前の喫茶店に来てください。それでは失礼いたします』

それにしても倉橋さんは私に会ってどうするつもりなのだろうか?

そこまで仲が良かったわけでもなく、たまたま委員会が一緒だっただけの先輩を呼びつける理由が、私には思い当たらなかった。

悶々としたまま、私は眠りについた。

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