い、一体なにを見せられているんだ、あいつは一体なんなんだ――。
あの動きはなんだ、なぜあんな動きが出来る……。
狼犬人の戦い方と言えば、速いが単純。だから攻撃に合わせて反撃、これさえ上手くいけば簡単って話だったんじゃあないのか……――。
皆が皆、一様に武器を構え、対象の攻撃を待っている。しかし誰一人として反撃が成功せず、次々と首筋側面から大量の血を噴き出し倒れていく。
あの緩急はなんだ……。こ、これじゃあまるで猫人じゃないか――。
視線を何度も何度も繰り返し繰り返し上下左右に動かし、忙しなく辺りを確認する。
い、いない、誰も、いない、つ、次は……。
ざわつく心をどうにか落ち着かせ、定まらぬ視線をなんとか正し、目標を見据える。
動いた……。く、来る……か――。
数瞬――、目標の姿がゆらりと、まるで蜃気楼に包まれたかのようにしてブレた。
咄嗟に武器を構える。距離が縮まる。
脳裏に首筋側面から血を噴き出しながら倒れていく自身の姿が浮かんだ。
し、死ぬのか……。い、いやだ! 絶対に――。
武器を握る手に力が入る。
絶対に、確実に、反撃を合わせなくてはならない。この一回だけは必ず――。
今一度、しっかりと目標を見据え、一挙手一投足、ほんの僅かな変化すらも見逃さぬよう、注視する。
すると、目標の重心が、僅かにだが右に寄ったのが見えた。
瞬間、血を噴き出し倒れていく自身の姿、たった今目標がとった行動、この二つの事柄が頭の中でつながった。
正面はおとり? 本、命は――。
導き出された答えに従い、目標の動きに合わせ、決して悟られぬよう慎重に、重心を右にズラす。
互いが互いの射程範囲内に入った。目標の体が大きく右に動いた。速い、だが、追えている。
視界の端に、動きの止まった目標が見えた。
ココ――!
構えた武器を右方向に振り下ろす。
――い……、な、い――?
左首筋に異様な熱さを感じる。景色が左に倒れていく。
「あ、? れれれ――――」
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