使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記

開拓×迷宮×交易ファンタジー 無人島を開拓して新しい国を作ろう!
藤崎
藤崎

13.ゴーストタウン、探索

公開日時: 2020年9月23日(水) 20:00
文字数:3,006

「ミュリーシア、この屋根材は使えるって親方が言っているのです」

「それは重畳。使える部分を引っぺがして持っていこうではないか」


 いくつもある廃屋のひとつ。

 その天井に立つドラクルの姫が、慎重に野地板に手を掛けた。


 屋根にふかれていた瓦は、すでに他のゴーストによって撤去されている。


 それを命じた死霊術師は、作業を心配そうに見上げていた。


「影術は使わないのか?」

「精密作業は、さすがに手でやったほうが良い」


 火起こしは、精密作業ではなかったらしい。


 その言葉を証明するかのように、ミュリーシアは屋根の下地である野地板を引きはがした。

 160cm前後とそれほど高くはない彼女の身長を超える大きさだったが、危なげなく作業している。


「釘は鉄じゃなく木釘を使ってるから、錆び付かないって親方が言っているのです」

「そうか。ここだと鉄も貴重品なんだな」

「腐りはしそうじゃが……その場合は、屋根材ごと交換する時期かの」


 背中から翼を生やし、確保した屋根材を“王宮”へと運んでいくミュリーシア。影術も使わずに、軽々とだ。

 この怪力も、勇者や聖女のスキルに当たる種族能力なのだろうか。


「良し。この野地板を交換してしまえば良いのだな?」

「下手な作業をすると、周囲を痛めるから気をつけろって言っているのですよ」

「ふっ。妾に任せよ」


 根拠は不明だが、とにかくすごい自信だった。


 そのミュリーシアが挑むのは、屋根の張り替え作業だ。リリィを通して親方の指導を受けながらとなるが、どうにかなりそうな雰囲気がある。


 その間、親方の弟子だったゴーストたちは、使える瓦の選別を行っていた。“王宮”の屋根が張り替えられたら、順次取り付けていくことになるだろう。


「自分で言うのもなんじゃが、高所の作業を問題にしないどころか飛んで資材を運べるとか。もしかして、大工はドラクルの天職なのではないか?」

「少なくとも、俺より向いているのは間違いなさそうだな」


 地面と変わらずに“王宮”の屋根で作業をするミュリーシアの様子を見て、トウマは全面的に任せることに決めた。


「ミュリーシア、そっちは頼んだ」

「うむ。頼まれたぞ、共犯者」

「俺は、もう一度家を回って使えそうな物を探してくる」

「器を作っても、中身がなければ虚しいだけだからの。こちらこそ、任せたぞ」


 補修作業では、トウマは足手まといにしかならない。特に、高所では力になれそうにない。

 であれば、有用な品を探したほうがいい。全体のクオリティ・オブ・ライフを上げるために。


「リリィ、手が空いてるゴーストたちにお願いがある」

「なんなのです?」

「家に落ちてる瓦礫と、道具類を分別しておいて欲しい」

「使えそうな物を持ち出さなくていいのですか?」

「そこは、俺の視点で吟味したい」

「りょーかいなのです!」


 その場で念じていたリリィは、“王宮”へと戻らずトウマに同行するようだった。

 一緒に、先ほど屋根を引きはがされた一軒に入っていく。


「あっちはいいのか?」

「親方は、元々口数が多い人じゃなかったのです」

「職人っぽいな」


 それも、頭に「昔気質な」が付くタイプだ。


 屋根がなくなったお陰で明るくなった室内を見回しながら、トウマは分かるとうなずいた。


「ちょっと憧れる」

「お喋りしたほうが楽しいのですよ?」

「そういうんじゃないんだよ、職人は」

「分かんないのです! それで、どんなのが必要ですか?」


 ここはまだ他のゴーストの手が入っていないので、瓦礫が転がっている。

 それを二人で選り分ける作業からだった。


「そうだな……」


 リリィに問われ、探す手を止めて頭の中でリストアップする。


 ベッドなどの寝具。いつまでも、闇に包まれているわけにはいかない。なぜなら、ミュリーシアと同室ということになるから。しかも、ミュリーシアのドレスと同じ素材である。冷静に考えると、いろいろマズい。


 テーブル、椅子、食器。いつまでも地面に座って食事というのも厳しい。それに、保管庫のような物も必要だ。


 服は一着でもなんとかなるが、タオルぐらいは欲しい。質はともかく、布があれば様々な使い道があるのは間違いない。


「いろいろあるですね。ということは、今、なんにもないってことなのです」

「人って、生きていくのにいろいろと必要な物があるんだな……」


 それに、今すぐではないが紙や筆記用具も必要になるだろう。


「生きるって大変です。リリィ、死んでて良かったです」

「いや、良くはない」


 時間を掛ければ自力で用意することはできるのだろうが、その時間がもったいなかった。

 早めに交易をすることを考えなくてはならない。


「そう考えると、お金って偉大な発明だったんだな」

「お金ですか……?」

「ああ、この島で完結してるんだったら必要ないか。簡単に言うと、食料とか服なんかと交換ができるお札みたいなもんだな」

「ふへー」


 リリィのすみれ色の瞳が鈍く光る。理解している様子はなかった。


 順調に発展したら、このグリフォン島にもいつか商店ができるだろう。

 そのとき、教えるしかなさそうだ。


 食料がいつでも買えるとなったら、きっと喜んで憶えてくれることだろう。


 そんな未来予想図にトウマは相好を崩し……遅れて落とし穴の存在に気付いた。


「……もしかして、お金で買った食料って、全部俺が食べることになるのか」

「はわわ……。いつでも簡単にご飯が手に入っちゃうのですか?」


 興奮しているのか。リリィがぶるぶると体を震わせる。


「夢のようなのです」

「ゴーストが食事をとれるようになる方法、なにか探さないといけないな……」


 このままだと、トウマの健康が危ない。

 肉体に憑依させるようなスキルはあるが……。


「その体をどこから持ってくるのかという問題が出てくるな」


 空いている体など、あるはずがない。

 今のところは、アイディアに留めとく。


 まずは、使える物を探さなくてはならない。


「そこまで期待はしてなかったけど、これは……」

「なにもなくて、もうしわけないのです」


 しかし、廃屋を何軒が回ったが成果はなにも得られなかった。


 あったのは、腐ったテーブルや椅子など家具だったもの。

 本当に鉄は貴重品だったようで、フライパンのひとつも見つからない。


 代わりに、壺や土鍋はいくつかあった。だが、残念ながら割れるかひび割れていて使い物にはならない。


 布も、風化してしまったのか見当たらなかった。まさか、食べてしまったはずはないだろうが……。


 結論から言うと、ほとんど朽ち果てていて使い物にはならなかった。


「あっ、トウマ。なにか見つかったらしいのです」

「行ってみよう」


 ゴーストの一人が待つ廃屋に入ると、床に朽ち果てず原形を留めているアイテムがあった。


 金属でできた柄と、鶴のくちばしのように細く鋭い先端。


「つるはし……か?」

「あっ、マジックアイテム。これは確か、マジックアイテムなのです」

「ああ、不朽属性が付与されているのか」


 これは開拓に役立つに違いない。


 トウマは、地面に置かれていた魔法のつるはしを持ち上げ……持ち上がらなかった。


「うぐっ。なんだこれ、やたら重たいぞ」


 無理をしたら持ち上げられなくはないだろうが、逆に腰を痛めてしまいそうだ。


「なにやってるですか、トウマ。大げさな……」


 リリィが笑って、つるはしに手を掛ける。

 トウマと契約して負の生命力に満ちた彼女なら……当然、持ち上がらない。


 それどころか、ぴくりとも動かなかった。


「ミュリーシアを呼んでこよう」

「それがいいのです」


 死霊術師とゴーストの意見は、完全に一致した。

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