使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記

開拓×迷宮×交易ファンタジー 無人島を開拓して新しい国を作ろう!
藤崎
藤崎

16.はじめての建国祭

公開日時: 2020年9月26日(土) 20:00
文字数:3,362

「やればできるもんだな、ミュリーシア」

「当然よ、共犯者。妾たちに不可能はないのじゃ」


 日が落ちる頃。

 松明で明かりが採られた“王宮”に、国民が勢揃いしていた。


 石の円卓に料理が揃い、建国祭が始まる。


 そのメニューは、マッスルースターの蒸し焼きやヤシの実のジュース。自生していたイモを蒸かしたものに、マンゴーのようなフルーツがそのまま並べられている。


 決して、豪華とはいえない。


 だが、精一杯でもある。満ち足りていた。


「では、共犯者。一言」

「そうだな……」


 ミュリーシアに促され、トウマは立ち上がった。

 あまり長いのは無粋だが、無ければ無いで締まらない。


「この島に流れ着いて数日。こうして建国祭を執り行うことができたのは、みんなの協力のお陰だ。心から感謝している。来年再来年と、この建国祭は続いていくだろう。規模も、もっと大きくなる。でも、歴史にも思い出にも残る唯一無二の日になる。一緒に過ごせたことを感謝し――」

「長いわっ。来年の話など、占い師に食わせておけば良いのだ。皆、楽しくやるぞ」

「おー! なのです!」


 首を傾げて座るトウマとは対照的に、円卓の周囲を浮遊するリリィたちが気勢を上げた。


「長かったか?」

「いい話ではあったが、祭りの前にあれはなかろう?」

「あれでも、かなり言いたいことを削ったんだがな」

「共犯者、真面目すぎるわ。まあ、そこが良いところではあるがの。とりあえず、飲め飲め。酒はないが、飲んでリラックスするのじゃ」


 ミュリーシアがヤシの実を片手で持ち、石のジョッキに中身を注いだ。


「ありがとう」


 それを飲み干し、トウマもミュリーシアのジョッキに返杯する。

 ヤシの実ひとつで1リットル近くはあり、二人で飲むのには充分だ。


「トウマ、トウマ。まずはお肉。お肉がいいのです」

「確かに、冷める前に食べて欲しいものだの」


 マッスルースターの蒸し焼きは、ゴーストの助力を得つつミュリーシアが調理した。

 石を削って作った鍋に処理をしたマッスルースターにハーブや自生していたイモを詰め、穴を掘って蒸し焼きにしたという豪快な料理だ。


「ミュリーシアというか、ドラクルが料理するというのがまず意外なんだが」

「ふっ。浅はかよの、共犯者」


 舌を鳴らしながら、ミュリーシアは人差し指を横に振る。


「ドラクルの料理技術を馬鹿にした物ではないぞ。血の提供者の健康は、妾たちにとって最重要課題と言っていいのだからな」

「なるほど……」


 理に適っている。


 トウマが納得したところで、ミュリーシアが手ずから切り分けてくれた。


「いただきます」

「遠慮なく食らうが良い」


 期待に満ちた赤い瞳に見つめられながら、トウマは石のフォークで肉を突き刺す。


 ハーブがいいのか、香しい風味がする。


 たまらず、かぶりついた。


 長時間蒸し焼きにしたからか、身はしっかりとしているのに柔らかい。なにより、肉汁が溢れ出すのがたまらなかった。


 なにより、今までに比べたら味がしっかりと付いて――美味い。


「はわわぁ……」


 驚愕と恍惚が入り交じった声をあげるリリィ。

 他のゴーストたちも、ここまでではないが似たり寄ったりだ。


「トウマ、もっともっと欲しいのです」

「ほう、リリィも気に入ったか」

「お気に入りなのです! ミュリーシアは天才なのです!」

「素人仕事をそんなにほめられると、逆にむずがゆいわ」


 薄く削った石のジョッキでヤシの実のジュースを飲むドラクルの姫。なんとも様になっており、美しいと言うよりは格好良い。


「イモも、ほくほくして美味いな」

「若いのだから、肉を食らうのだ。肉を」

「親戚のおじさんみたいなことを言われても困る」

「おじっ!?」


 薄く削った石のジョッキが、ぴしりと音を立てた。


「妾は、ドラクルではまだまだ若いと侮られておるぐらいでな。それで、叔父との権力争いに敗れた面もあるわけでな」

「人間、年を取ると若い頃のようには食べられなくなる。そうなると、誰かが食べてるのを見て喜ぶようになるのだそうだ」

「ドラクルはあまり食事を摂らぬから、代わりに……か」


 そんなことはないと反発すればいいのに、納得してしまいそうになるミュリーシア。

 ここで、リリィが飛び上がるように手を挙げた。三つ編みにした綺麗な金髪が宙に舞う。


「はいはい! リリィたちで劇をやるのです!」

「劇?」

「はいなのです。お祭りでよくやっていた、村の始まりのお話なのです」


 それは、神蝕紀の大戦から逃れるため、精霊アムルタートに導かれ大移動をした人々の物語。


「精霊ってなんだ?」

「光輝協会が教えるはずもないのう。天地自然の精が形を取ったものじゃな」

「ああ、神様みたいなものか」

「うむ。実際、精霊の中でより力の強いものが神と呼ばれたという説はある」


 喋れないゴーストたちの代わりにリリィがシチュエーションを説明し、劇は進んでいった。途中で、ミュリーシアも補足をしてくれる。


「精霊アムルタートは、大地の精霊とも呼ばれ食料を司る存在じゃ」

「それは、リリィたちにぴったりだな……」


 最初は一家族だけだった旅も、途中で仲間たちが加わり。その仲間たちをアクシデントで失いながらも、精霊アムルタートの導きでついに海へ。


 苦難の航海の末、この島にたどり着いたところで劇は終わった。


「リリィ、みんな。ありがとう、面白かった」

「こうして歴史を伝えていくのは、人ならではの智慧であるな。素晴らしい」

「そんな照れるのです」


 ほめられてくねくねするリリィだったが、なにかを期待するかのようにトウマを見つめる。


「俺か?」

「順番というやつだな、共犯者」


 リリィだけでなくミュリーシアからも、同じ視線を向けられた。

 こうなると無視はできないが、トウマは芸などできない。


 祖父から手慰み程度に柔術の技は習っているが、一人ではどうしようもない。


 そこで、ふとアイディアが降ってきた。


「ひとつ、建国祭に相応しい出し物を思いついた」

「ほう。歌でも歌うのかの?」

「そうだ」

「共犯者の歌……じゃと……?」


 おもむろに立ち上がり、前置きなしに歌い始める。


 ゆったりと、荘厳で。悠久の時の流れを感じさせる歌だった。

 伴奏がないのに、しっとりと染みいるよう。


 最初は驚いていたミュリーシアやリリィたちだったが、耳慣れない異世界の音楽に聞き惚れる。


「すごいのです! なんだか、不思議な歌だったのです!」

「見事だったぞ。ところで、なんの歌だったのだ?」

「国歌だ。俺の故郷のな」

「なるほど……にしては、随分とゆっくりとしたテンポだの」

「まあ、勇ましくはないな」


 いろいろあって不遇な扱いだが、スポーツの国際試合で流れるこの曲がトウマは嫌いではなかった。


「じゃが、気に入った。妾たちの国の歌も、いずれ作らねばならぬな」

「そうだな。いずれ必要になるよな。国旗も、国名も」

「吟遊詩人でもスカウトするかの。妾たちの建国記を残させるのも一興だろうて」

「それは楽しそうなのです」

「ああ、賛成だ。夢が広がるな」


 といったところで、ミュリーシアの番になった。


「分かっておる。妾は逃げも隠れもせん……が、立つのだ共犯者」

「また俺か?」

「無論だ。一人でダンスなどできるはずがあるまい?」


 ダンス。

 その単語で思考が漂白されたトウマの手を取り、ミュリーシアはステップを踏む。


 ワルツのようなスローなダンス。

 しかし、完全に初体験のトウマには難易度が高い。


 そもそも、ミュリーシアがこんな至近距離にいる時点で大変だ。運動は異なる理由で、心臓が跳ねる。


 足下を見て、必死にステップを踏むのが精一杯。


「これ。パートナーの顔を見るために、その眼は存在するのだぞ」

「でも、足を踏むぞ」

「踏むが良い」

「ええ……」


 堂々としたミュリーシアに、トウマは思わず笑ってしまった。


「どうなっても知らないぞ?」

「共犯者一人リードできぬ妾ではないぞ?」


 開き直ったトウマのステップ。

 それを受け止めるミュリーシア。


 案の定、ダンスは無茶苦茶になった。


 だが、それで良かった。それが良かった。


「今までで、一番楽しいダンスであったぞ」

「俺もだよ」


 ダンスから解放され、トウマはヤシの実のジュースを一気に飲み干した。疲れた体に染みる味だった。


 そこで、リリィが小首を傾げながら尋ねる。


「ところで、トウマとミュリーシアのどっちが王様なのです?」

「ミュリーシアに決まってる」

「共犯者であろ」


 お互いがお互いを指さした。

 まるで示し合わせたように、同時に。

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