使い捨てられ死霊術師のゴーストタウン建国記

開拓×迷宮×交易ファンタジー 無人島を開拓して新しい国を作ろう!
藤崎
藤崎

14.巨人のつるはし

公開日時: 2020年9月24日(木) 20:00
文字数:3,206

「ミュリーシア、作業中に悪いな」

「いや、屋根の補修は終わっておる。気にする必要はないぞ」

「終わった? もう?」


 出迎えるため外に出ていたトウマは、思わず太陽の位置を確認した。

 リリィと廃屋を探索して時間はそれなりに経っているが、まだ昼前。


 そんなに早く終わる作業だっただろうか。


「ミュリーシアに大工の才能があった……わけないよな」

「いや、それは分からぬぞ?」

「それはさすがに……。ゴーストたちが頑張ってくれたってことでいいんだよな?」

「うむ」


 トウマの真面目な反応に、ミュリーシアの口元が緩む。作業中はどこかへ仕舞っていた羽毛扇と一緒に、なまめかしい唇を開いた。


「ゴーストたちも、作業をする中で勘を取り戻していったようでの」

「成長というのとは、ちょっと違うか。でも、そうか。変わっていけるんだな」

「一度終わった存在が、いい意味で変化する。死霊術師の可能性とは、大したものだの」

「すごいのは、ゴーストたちだけどな」


 スキルとしては保持していても、実際に使用したことはなかった。

 やはり、経験してみないと分からないことは多い。


「難しい話は終わったのですか?」

「別に、難しくも深刻でもないと思うんだが」

「まあ、本題ではなかったのは確かであろう」


 羽毛扇をぱちりと閉じて、マジックアイテムが見つかった廃屋へと入っていく。

 トウマとリリィが、その後に続いた。


「ほう、これが……。なかなか立派なつるはしだの」

「ああ。見た目通り重たくてな。初期の開拓者には、巨人でもいたんじゃないかと思うぐらいだ」

「言われてみれば、人間だけが避難したとは限らぬな」


 感心したように言うミュリーシアの姿は、泥中の蓮と表現すべきか。薄汚れた廃屋の中でも輝いていた。


「ミュリーシアなら、きっと使えるのです!」

「無理はしなくていいからな」

「どれ」


 ひょいっと。

 道ばたのちょっといい枝を拾うぐらいの気軽さで、つるはしを持ち上げた。


「持ち上がった……」

「さすがミュリーシアなのです」

「あれ、30キロはあるんじゃないかと思うんだが」

「なあに、ドラクルにとってはこの程度軽いものよ」

「とんでもないな、種族能力ってのは……」


 人間にはない力。

 それを目の当たりにすると、排斥しようとする光輝教会の考えも分からなくはない。


 だが、やはりそれは早計。


 味方になれば頼もしいことこの上ないのだから。


「そういうわけでもないのだがの。ドラクルは、力も強いのだ」

「はあ、こりゃはすごい」

「ふふふ。良い、妾を褒め称えることを許可するぞ」

「ミュリーシアの力は巨人さんなのです。きっと、山も砕けるのです」

「……ならば、これは巨人のつるはしと命名するか」


 そう宣言するが、微妙に視線は合っていない。褒め称えろと言いつつ、ミュリーシアは照れていた。


「それで、そのつるはしって特別な効果があるのか?」

「不朽属性が付与されてるだけで、充分特別のように思えるがの」

「それもそうか。お陰で、俺たちも使えるんだしな」


 メンテナンスフリーで使い続けられる道具。その恩恵は計り知れない。


「でも、試してみて欲しいのです」

「リリィ、なにか憶えてることがあるのか?」

「分かんないですけど、そんな気がするのですよ」

「良かろう。敵情を調べるは凡夫も発想するが、内情を知るは賢者でも難しと言うしの」


 彼を知り己を知れば百戦殆うからずと、同じような意味だろうか。

 含蓄がありそうな言葉とともに、三人は外に出た。


 そして、荒れ果てた土地へと移動する。


「では、試してみるぞ」

「頼む」


 ミュリーシアが地面を掘ると、切っ先が簡単に地面へ埋まった。

 リリィがびっくりしたように飛び上がる。


「すごいのです! 簡単に掘れちゃったのです!」

「すごいのは、ミュリーシアの力だったりするんじゃないのか?」

「いや、それだけではないの。これは、もしかしたら掘り出し物かもしれぬぞ」

「地面を掘ってるから?」

「そうではないわ!」


 真顔でツッコミを入れられ、ミュリーシアは白磁のような頬を染めてつるはしを引き抜いた。


「あまりにも手応えがなさ過ぎた。土属性への特攻が付与されているかもしれぬ」

「土属性? 特攻?」


 土や岩などに対する、特殊な効果があるマジックアイテムということなのだろうか。


「よく見ておれよ?」


 先ほどと違い、特に力を入れた様子はない。

 にもかかわらず、つるはしは今度も簡単に切っ先が埋まる。それをまたしても軽く引き上げると、あっさりと地面が盛り上がった。


「今度はよく分かった。まるで地面が豆腐だな」

「入植の初期段階では、大いに役に立ったであろうの」


 ミュリーシアが掘り進めると、岩にぶち当たった。

 だが、それも障害にはなり得ない。


「熱したナイフでバターを切るがごとしよの」


 地面に埋まっていた岩も、簡単に削り取られる。

 というよりは、つるはしに触れた部分が溶けて消えたように見えた。


「なあ、ミュリーシア。これって……」

「うむ。妾も気付いたぞ」

「え? どうしたのですか?」


 説明するよりも、見せたほうが早い。


 ミュリーシアは地面を掘り返して手頃な大きさの石を拾い上げると、巨人のつるはしを短く持って切っ先を押し当てた。

 横倒しにして、慎重に。それでいて惑いなく動かしていく。


 すると、でこぼこだった表面が綺麗に削られた。

 かんなで削るように、それよりも鮮やかに。


 反対側も同じように加工し、ある程度深さを作るように傾斜を作る。


「どんなもんだの?」

「立派な皿ができたな……」

「はえー……なのです」


 予想はしていたが、トウマは驚きを隠せなかった。

 黒い、素材を活かしたデザインの器。高級料亭で使われていると言われたら、素直に信じてしまうだろう。


「ミュリーシアって、芸術的なセンスもあるのか」

「隠れておった才能が、日の目を見てしまったようじゃの」


 予想もしていなかったリリィは、すみれ色の瞳を見開いている。驚いて、瞬きも忘れていた。


「なあ、ミュリーシア。適当な大きさの岩をくりぬいたら、水瓶ができるんじゃないか?」

「岩の椅子やテーブルも作れるのう」

「すごい。一気に、問題が解決するぞ」

「ちょっと山のほうへ行って、材料を取ってくるかの」

「あっ。親方が、細かい加工を教えられるって言っているのです」


 家の修理を終えた親方たちも、喜んでいるようだ。

 小さな村で大工専門だったとは思えず、木工や石工も受け持っていたのだろう。


 そうと決まれば動きは早かった。


 巨人のつるはしを担いだミュリーシアがグリフォンの爪(タロン)。島の南西の半島から石を切り出して影術で運ぶと、早速加工を開始。


 トウマも驚く集中力。

 巨人のつるはしの特性。

 血を吸ったばかりのドラクルの集中力。


 そして、今まで発揮されたことのなかった芸術的センス。


 それらが組み合わさって、次々と作品を完成させていった。


「ふふんっ、どうだ?」

「これは……素直にすごいな」


 修理が終わった廃屋改め“王宮”には、大きな石造りの円卓が設置されていた。

 その周囲には、これまた石造りの椅子がいくつも。


 そして、その上には石の皿やジョッキ、マグカップ。それに、ナイフやフォークといったカトラリー一式が並べられている。


 石製といっても、極限まで薄く加工されているため重量は金属と変わらない。


「これなら、土をこねる焼き物じゃできないような造型も可能なんじゃないか?」

「できるであろうよ」

「もしかしたら、特産品になるかもしれない」

「一点物だからの。精々、吹っ掛けてやろうではないか」


 トウマにほめられて、ミュリーシアも満更ではないようだ。

 それどころではなく、端的に言えば浮かれていた。


 その勢いのまま、無遠慮にトウマの手を取り顔を近づける。


「そうだ。いいことを思いついたぞ、共犯者」

「いいこと? それはいいが、近い……」

「せっかくだ。建国の宴をしようではないか!」


 トウマの抗議など、どこ吹く風。耳に届いているのかも怪しい。

 ミュリーシアは高らかに宣言し、落雁沈魚。空を飛ぶ鳥も見とれて地面に落ちるような笑顔を浮かべた。

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作者は常時コメントやレビューに飢えている生き物ですが、せっかくですのでこの機会に投稿してみてはいかがでしょう?


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