元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第三十一話 声

公開日時: 2020年9月30日(水) 07:00
文字数:1,231

「何をのんびりと道草食っていたの?」


雷獣を小脇抱え玉藻の所へと運んできた酒呑の綺麗に真っ直ぐ切りそろえられた前髪の隙間から角が二本にょきりと生えている。


「すまんすまん……せやけど、ごっつ苦戦してるようやな」


尋常ではない量の汗が吹き出し、やつれてしまっている玉藻を見た酒呑は、その相手の強大さを改めて認識した。


「あなたこそ角なんて生やして……久しぶりに見たわ……後で触らせて?」


「阿呆、誰が触らせるかいっ!!……まぁ、まだ軽口叩ける元気はあるようやな。熊、金熊っ!!」


酒呑から呼ばれた熊と金熊の二人が駆け寄ってくる。二人の額の中央にも角が生えていた。酒呑とは違い、一本の太く長い角。


「ええか、熊は金剛の嬢ちゃんに、金熊は鬼怒笠の嬢ちゃんにありったけの気をやってこい。うちは、玉藻とここであの化物ばけもんの足止めするさかい」


「分かりました、酒呑姉様」


二人は返事をしてまだ脱力感の残る伊桜里と雨月の元へ行くと、軽くその額へと触れた。


触れられている伊桜里と雨月は、自分達の体が芯から熱くなるのを感じている。熊と金熊の気が体内へと流れこんで来ているのだ。


脱力感があり、足腰に力の入らなかった二人。


それが、熊達から気を注がれて行くうちに、足腰どころか全身に力が漲ってくるのが分かる。


それを見ていた酒呑が佳代の方へと視線を移す。濃ゆい霧の中、薄らと見える二つの影。


佳代と妖魔である。


しかし、二人とも微動だにせず、互いに睨み合い膠着している。不思議である。先程まで、少しだけ佳代に攻撃したが、伊桜里や雨月を取り込もうとしたり、紅葉や雷獣を殺そうとしていた妖魔が動かない。正直、佳代一人で太刀打ち出来る相手ではない。


では、玉藻だけではなく、酒呑まで足留めに加わったからか?


それも違う。酒呑はあくまでも動きを完全に止めるのではなく、佳代達が戦えるレベルまで……のつもりであるし、現にそうしていた。


「……あの妖魔、なんや?なんで佳代に仕掛けへんのや?」


そんな時だった。


熊と金熊の額にあった角が消えた。伊桜里と雨月にありったけの気を注いだのである。その場に膝を着く熊達に何度も礼を言う二人に、酒呑がはよ行きっと急かす様に言った。


佳代の元へと走る二人。


その事に気がついた妖魔が、先程までの鈴を転がす様な声ではなく、野太い男の声で、威嚇する様な咆哮を上げた。


「……あ、あの声はっ!!」


その声を聞いた酒呑や熊達は狼狽の色を隠せないでいる。熊と金熊の二人が震えていた。


「どうしました、あの声に聞き覚えが?」


玉藻も三人の様子がおかしい事に気づき尋ねた。その問いに頷く酒呑。その額に一筋の汗が流れ落ちていく。


「知っとるどころやない……あの声は……」


その妖魔が佳代を横目に、伊桜里と雨月の方へと向かっていく。その後を追いかける佳代。酒呑と玉藻に抑えられているのにも関わらず、動きが疾い。


「二人とも左右に飛んで」


突如聞こえた声に反応し、左右へと飛ぶ伊桜里と雨月。その二人の間から現れた咲耶が妖魔に突きを入れた。

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