千草は社を出て、三人と一匹を妖魔の出現した場所へと案内した。佳代の生まれ育ったよりも田舎で長閑な地方であるこの村に、佳代と咲耶が考えていた以上の妖魔が出現している事が分かった。
それも一晩で一体……ではなく、多い時は七体もの妖魔が違う場所へと現れたと言う。
決して強い妖魔ではないらしいが、それでも数多く出られると、加藤家だけでは討伐が困難である。
「ここは見てん通り、何にもなか田舎ばい。お陰で空襲も受けんで済んだとです。それに昔、大きな戦が行われたわけでん、処刑場があったわけでんなかとです。やけん、こぎゃんも妖魔が現るる理由が分からんのですよ……」
確かにその通りであろう。ここよりも人口の多かった佳代の生まれ育った場所でさえ、妖魔はそんなに出なかった。出ても一体づつ。複数の場所に同時に出たと言うことは佳代の記憶にはない。
そんな時、ふと佳代は思い出した。
「ねぇ、千草さん。この村に加藤家以外に神通力の高い人っておるの?」
「私ら以外で神通力の高い人?」
佳代の質問に首を傾げて考える千草だったが、直ぐに首を振った。
「否……そぎゃん人は居らんはずばい。おりゃうちらがすぐに気づくはずやけんですね」
確かにその通りであろう。ただの人間ならどんなに神通力が高い者がいようと気づかない。だが千草やは加藤家の人間は、神通力や妖気、刀気には敏感なはずである。
しかし、佳代には気掛かりな事があった。
あの竹子達もその存在に気づいていなかったキヨの神通力。
刀や槍を持っていれば自然と滲み出る刀気とは違い、神通力は隠せるのだ。
キヨがそうだったでは無いか。
頼光と四天王を呼び出し、鈴鹿御前とも渡り合うキヨの神通力。
否……果たしてあの少女がキヨであるとはまだ断言出来ないのだが、佳代は あの少女がキヨだとはっきりと言えた。確証はない。ただ幼き頃より一緒に過ごす事の多かった佳代とキヨ。あの少女の中に確かにキヨだと断言できる何かを感じ取っていた。
突然、神通力が着いたのか?
それでも四家筆頭であり、妖魔討伐隊始祖である慈花の再来と呼ばれた竹子が気づかないわけはない。
それを知っているからこそ、なにか嫌な予感のする佳代であった。
そしてその自分の考えを千草達へと話してみる。千草達は佳代の話しを真剣に聞いていた。
「確かに神通力ば隠されとると分かりまっせんが、ばってん、ここは人口ん少なか村ですけん。両親もじい様達も誰も知らんていう事は有り得まっせん……後から入ってきた……後から……っ!!」
千草が何かに気づいた。
そして、考えている。
「もしかしたら……で申し訳なかとですが、戦前に疎開してきてそんままいる家族が二組、そして、戦後になって引っ越して来たんが二組……もしかしたら……こん中ん誰かが隠しとったんなら……」
「それはどういう人達ですか?」
咲耶が千草へと尋ねる。すると辺りを見回し、また懐から和紙を四枚取り出すと、さらさらと文字を書き、呪いを唱え式を四体呼び出した。
そして、佳代達を脇道に祀られた道祖神のある祠へと連れて行き、それを囲むように四方へ式を立たせた。
一種の結界である。
北に子、南に午、西に卯、東に酉の顔の面を被った和装の少女姿をした四体の式。
それぞれが結跏趺坐し印を結んでいる。
「念には念ば……です。誰が聞いとるか分かりまっせんけんで。式で結界ば張らせて頂いたとです」
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