とある日の事である。
田植えが終わったばかりの田圃が広がる田園地帯。
初夏の陽を受け、水面がきらきらと輝き、風に吹かれ植えたばかりの苗がゆらりゆらりと揺れている。
二人の少女と一人の童女と猫一匹が、のんびりと田舎の田圃道をお喋りをしながら歩いていた。
少女の一人は肩より少し長い黒神を三つ編みにしており、もう一人は肩の手前程のおかっぱ頭。
そして、山伏姿の童女が三つ編みの少女と手を繋ぎ、散歩でもしているかのように鼻歌を歌っている。
猫である。
凛とした姿勢に、ぴんと真っ直ぐに立てた尻尾。つんと澄ましたその表情。
猫なのに威風堂々としたその雰囲気は、三人と一匹の中で一番、しっかりしていそうである。
しかも、よくその猫を見てみると、尻尾の付け根辺りから二本へと分かれているではないか。
所謂、猫又であった。
「ねぇ……鴉丸。本当にこの道であっているのかい?見渡す限り、田圃しか見えないのだけど?」
にゃぁごと鳴かずに、人間の言葉を喋り出す猫又。
「なんやぁ、猫又ぁ。相変わらずうちを信用せえへん奴やなぁ」
鴉丸と呼ばれた山伏姿の童女。確かに、猫又の言う通り、進めど進めど、全く景色が変わらないのであった。
「そりゃそうでしょう、鴉丸。あなたは今まで、何度も何度も何度も案内しているつもりが道に迷ってばかりじゃぁないか?」
「……」
ぐうの音も出ない。
そんな表情の鴉丸に三つ編みの少女がぷぷっと吹き出した。
「なんやぁ……佳代まで。うちは迷ってなんかあらへんわ。みんなに試練を与えとるだけやっちゅうねん」
「何が試練だよ……迷子になった案内人に案内されるこっちは大迷惑さ」
「なんやとぉっ!!ほんま、この猫又ぁ!!一遍、分からせなあかんようやなぁっ!!」
「おやおや、半人前のお子様天狗がどう分からせてくれるのかしら?」
顔を真っ赤にして怒る鴉丸。
ぎらりと光る猫又の双眸。
両者は一歩も退かず、田圃道の真ん中で睨み合いを始めてしまった。
「ちょ、ちょ、ちょ……鴉丸、こげぇな所で喧嘩してどげんすっとねやん」
鴉丸と猫又の間に割って入る佳代と呼ばれた少女。
ぞくり……
そんな時だ……佳代の背筋に寒気が走った。そして、嫌ぁな事を思い出した。
あれは確か……初めておかっぱ頭の少女、咲耶と出会った時の事である。
言い争いをしていた佳代と鴉丸に咲耶がとった行動。
慌てて咲耶の方を見ると、時既に遅し。
咲耶が愛刀である菊一文字則宗をすらりと鞘から抜いて構えているではないか。
「咲耶……でけんって。お願いやけん、刀を納めて」
駄目だ……咲耶の目がすわっている。
それに気づいた鴉丸の顔が青ざめていく。猫又もつっと鴉丸から離れていく。どうやら鴉丸と猫又は喧嘩をやめたらしい。
それを見た咲耶が刀を鞘へと納めると、にこりと微笑んだ。
「旅は道連れ、なんとやらっていいますでしょ?みんな力を合わせて仲良く行きませんか?」
菊一文字則宗を納めた咲耶を見て佳代はほっと胸を撫で下ろした。
そんな時である。
「もしや……鬼丸佳代様と神貫咲耶様やねぇか?」
名を呼ばれた二人が、声のした方へと顔を向けると一人の少女が立っていた。
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