元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第三十八話 開かれた扉

公開日時: 2020年10月1日(木) 22:00
文字数:1,394

「……もう待てんぞ」


岩の上に座っていた頼光がゆっくりと立ち上がる。そのひしゃげていた頭部もだいぶ回復していた。


「そう言うなや……頼光。うちらと殺り合うよりも楽しいかもしれへんぞ?」


頼光は立ち上がると手を首にあて何度か左右へと倒し、体の状態を確かめている。


「……ふん、鬼妖風情が何を言うか。儂は別に楽しくなくとも良い。貴様らを征伐するのが先じゃからな」


「なんやわれぇ……やれるもんやったら殺ってみい?」


ぎろりと睨む酒呑。それを無表情で見つめる頼光。今にも飛びかかりそうな勢いの酒呑と刀に手を掛けいつでも応戦できる状態の頼光。


「待ちなさいよ、二人とも。短気は損気って言うでしょ?」


その二人の間に薙刀をすっと割り込ませる玉藻。


「……ふん、気もろくに回復しとらんうぬらに何ができる?今の状態じゃと、茨木童子の方が遥かに手応えがあるわ」


「ふん、安い挑発ねぇ……頼光」


そう言いながらも、玉藻は眉間に深い皺を寄せる。腰から瓢箪をとるとぐびりと一口、酒を流し込む酒呑。そして、腕で無造作に口を拭うと辺りに響く様な大きな大きなげっぷを一つした。


酒の臭いが辺り一面に広がっていく。それを見ていた僧正坊が酒呑に近づいてくると、その瓢箪に手を伸ばした。


「……酒呑。どれ……うちにも一口」


酒呑から伸ばしたその手をぱしんと叩かれた僧正坊がばつの悪そうな顔をしている。


「いい加減……うぬらの時間稼ぎにも飽きたわ……」


そう言うと頼光が刀を抜刀し鋒を玉藻達へと向けた。ちっとあからさまに舌打ちをして頭を掻く酒呑が腰からすらりと短刀を抜いた。


これ以上は時間稼ぎができない……


玉藻と僧正坊も同じ様に構えをとる。茨木だけが、少し後方で佳代達を護る様に立っていた。


たったったったっ


そんな玉藻達の間を足音と上がる土煙だけを残し、一陣の風が通り抜けていく。鴉丸達が詠唱していたあの呪いが止まっている事に気がついた。


「信じてたわよ……」


駆け抜けていく風に吹かれふわりと舞い上がる髪を押さえながら、茨木がにこりと微笑みその風を見送った。


刀と刀のぶつかり合う甲高い金属音。


そして散る火花。


「……ほう、うぬら……」


頼光は自分をぐるりと囲む四人の少女をにやりと笑みを浮かべながら見回した。その表情には嘲りがこもっているのが見てわかる。


「油断大敵ちゅう諺を知っとるけ?」


金剛杖を頼光へと突きつけながら僧正坊が頼光へと言うと、すっとその場から下がっていく。酒呑と玉藻も僧正坊の横まで下がると、また酒呑がぐびりと酒を口にして、今度は酒の入った瓢箪を僧正坊へと渡した。


それを受け取り同じ様に酒を一口飲むと、酒呑へ戻さず玉藻へと渡す。受け取る玉藻が勢いよく酒を流し込んでいく。その呑みっぷりに驚く酒吞と僧正坊。


ぐびぐびぐびぐび……


「ちょい待てや、化け狐っ!!われぇ、どんだけ呑んどるんや?」


「けちけちしなさんな、酒呑。器も小さい、胸も小さい、背も小さい……それじゃぁ、救いようがないでしょ?」


玉藻は酒呑へ瓢箪を返し、げふぅっと先程の酒呑がしたげっぷに負けない大きなげっぷをするとぷるんとした唇を舌で舐めた玉藻を、酒吞達があきれ顔で見つめている。


そんな三人を余所に、頼光の刀を跳ねあげた佳代がもう一度、鞘に刀を戻すと、深く膝を曲げ腰を落とし柄に手を添えた。そして大きく息を吸い込むと、添えていた手に力を入れ一気に息を吐き出すと同時に大きく踏み込み抜刀した。

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