馬鹿の一つ覚えと言われても良い。徹底的に鍛錬してきたこの刺突しか私にはない。諦めるな、信じろ。自らが行ってきた事を。父母が教えてくれた事を。
「うああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
響く千草の声。
膨らみ爆発する様に吹き出す刀気
どぉんっと大地がが震える踏み込みと同時にその槍が突き出された。
迅かった。
一直線に突き出される槍。
単純な攻撃であるのに関わらず、サトは身動きすらできなかったのだ。
サトの胸を貫く片鎌槍。
さらに突く。そしてまた突く。
千草の体も悲鳴を上げている。血管の浮かぶ前腕や大腿部。飛び散る汗で額にべたりと纏わりついている前髪。食いしばる歯が顎がぎしぎしと軋みを上げている。
それでも止めない。
全ての力を出し切るまで。この腕がちぎれようと止めはしない。その覚悟が千草を動かしていた。
徐々にサトの体が細切れにされていく。既に両腕は無くなり、印も結べなくなっている。回復しようにも千草の刺突がそうさせてくれないのだ。
「畜生っ、畜生っ、畜生ぉっ!!」
サトの口から悲鳴に似た言葉が飛び出てくる。目は血走り、口元から涎を垂らしながら、叫んでいる。先程までの余裕さえ見えない。
「おうおうおうおうっ!!あと一息、あと一息じゃ、千草ぁっ!!」
東門童子が手を叩き千草へと声を掛ける。だが、どうした事が、千草がゆっくりと倒れていくではないか。そして、倒れながら東門童子の方を見て消えてしまうほどのちいさな声で言った。
「ごめん……ね……東門童子…… 佳代様、咲耶様……後は……任せたばい……」
槍が地面へと落ちる。
あれ程の刀気を出し続け、刺突を繰り出していた千草の体も限界を迎えたのだ。ぱたりと倒れぴくりとも動かなくなった千草に東門童子が慌てて駆け寄った。
「化け物が……」
千草の刺突が止まり、後一歩まで追い詰められていたサトの体が徐々に回復していく。そして、倒れている千草を見てにやりとした笑みを浮かべてた、その時である。
「応っ!!」
サトの背後から聞こえてきた声。その瞬間、空気を斬り裂く音と共に回復していく体が袈裟懸けに斬られた。
「——っ!!」
振り返るサトの顔が驚きの表情へと変わる。そこにいたのは鬼切安綱を構えている佳代である。
「任せとき……千草さん。うちらがあんたん後ば引き継ぐけん」
「あなたはっ!!」
すんっ!!
電光石火。
きらりと鬼切安綱が光ったように見えた。いくつもの光りの帯が宙を舞う。
「こんなっ!!」
サトの悲痛な叫び声が上がる。
佳代からの剣戟に堪らず宙へと逃げようとするサト。そこへ今度は咲耶が待ち構えていた。
「逃がしませんよ?」
菊一文字則宗が唸りを上げサトへと襲い掛かる。ぎらりと光る刃。波のような美しい刃文。切り刻まれたサトの体を咲耶が貫いた。
ちりっ……
僅かな感触であった。貫いていくその鋒に何かが触れた。筋肉や筋、そして骨とは違うその感触。咲耶にはその感触に覚えがあった。今で何度も貫いてきたあの感触と同じである。
「見つけましたっ!!」
苦しそうに歪むサトの表情。僅かに掠っただけとはいえ、その影響はとても大きい。
直ぐに再生するはずのサトの体の一部がぼろりと崩れ落ちた。まるで泥人形がその水気を失い、乾いた部分から崩れていくようである。
「糞っ!!糞っ!!糞っ!!」
サトの怒号が辺りへと響く。だが、もうその体の劣化を防ぐことが難しい様子のサトに、佳代と咲耶が詰め寄っていく。逃げ場はもうない。
ぼろりぼろりと朽ち果て崩れ落ちていくサト。そのサトがゆらりと揺れ、そのまま地面へと倒れていく。左足の膝がぼきりと折れたのだ。そして、地面へと倒れ込んだサトが首だけ起こし、佳代達を睨んでいる。まだ、この状況になっても諦めていない目付き。
みしりみしり……
どこからか小さいが、何かを突き破ろうとしている音が佳代達へと聞こえてくる。
みしりみしり……
その音がサトにも聞こえたのだろう。サトの表情が一変した。
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