元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第二十八話 雷撃

公開日時: 2020年9月29日(火) 12:00
文字数:1,423

少女の手が二人に触れようとした、その時である。鋭い風を切る音と共に、少女の首に矢が刺さった。ゆっくりと少女が矢の放たれた方へと顔を向ける。そこには次の矢を用意し弓を構えた雷獣が立っていた。


「……邪魔しないで」


首に矢が刺さっている事などまるで気にもならないような素振りで少女は雷獣へとそう言いながら、自ら首の矢を引き抜くと、それを雷獣へ向けて投げた。少女のてから放たれた矢が真っ直ぐ、雷獣に向かって飛んで行く。


避けれない事はない。しかし、雷獣の後ろには小鷹丸がいる。自分一人が避けるだけなら問題ないが、小鷹丸を助ける余裕なんてない。かと言って、玉藻や吽、紅葉達は少し離れたところにいる。


矢が雷獣の左肩を貫く。急所をずらし受けたのだ。


「雷獣様っ!!」


雷獣は自分の元へと駆け寄ってきた小鷹丸に、にこりと微笑む。


「心配するな、小鷹丸。お前は玉藻様達のところに行っといで」


自分を見上げ泣きそうな顔をしている小鷹丸の頭をぐりぐりと撫でると弓矢を渡す雷獣。


「紅葉」


「はい、玉藻様」


「行けるか?」


「いつでも」


「よし、頼んだ」


「御意」


そう答えた紅葉の体が霧散するように消えた。


「大丈夫か、雷獣?」


いつの間にか雷獣の隣に来た紅葉。ちらりと紅葉を見た雷獣はあぁと一言だけ答えた。


「玉藻様が刀気で妖魔の動きを鈍らせているうちに、私があの二人を何とか引き離す。その後、雷獣はあの妖魔に電撃を食らわしてくれ」


「分かった」


互いに顔を見合わせこくりと頷く二人。すると、紅葉は右腕を肩の高さと水平に真っ直ぐ横に伸ばすと、何かを唱えだした。


唱えていくうちに紅葉の右掌が、ぼんやりと光ったと思うと、紅葉の手に大きな鎚が握られている。六尺程の長く太い柄に、大きな鎚頭が備えつけられ、その鎚頭は両口が平らになっており、大きな金槌を思わせる単純な戦鎚ウォーハンマーであった。しかし、単純な作りであるが、その戦力は使う者の力次第でとてつもなく強力な武器となるだろう。そんな重そうな戦鎚を軽々と扱う紅葉。戸隠山の鬼女と恐れられた実力は伊達ではない。


「行ってくるよ」


大きな戦鎚の重さを感じさせない素早い動きで少女の姿をした妖魔の方へと向かう紅葉。そんな様子を察したのか、妖魔は一旦雨月達から目を離し紅葉の方へと顔を向けた。


雨月達はまだ何らかのまじないにかかっているのか意識がぼんやりとした表情をしている。


「二度死ね、この妖魔化け物


大きく振り上げた戦鎚が妖魔の頭部目掛けて振り降ろされた。妖魔の頭頂部に戦鎚がめり込み、そのままの勢いで地面へと叩きつける手応えは十分にあった。鎚頭から太い柄を通しその感触が紅葉の掌まで伝わってきている。


そして、雨月達を抱え少し離れた紅葉が雷獣へ叫んだ。


「雷獣‼︎」


「応‼︎」


雷獣が紅葉に答えたその直後であった。身体中に響く轟音と共に目の眩むような光りが辺りを包み込んだ。雷である。紅葉が時間を稼いでいる間に雷雲を呼んでいた。古来より雷と共に現れるとされた妖の雷獣だからこそ出来る大技だ。しかし、それはかなりの体力を削るため、何回も使えるわけではない。


その場にがくりと膝をつき肩で息をしている雷獣に、紅葉が手を上げている。


その直後である。びくんっと紅葉の体が仰け反った。そして大量の吐血。上下の歯がぶつかりがちがちと音を出す。紅葉が雷獣の方へと力を振り絞り手を伸ばしたが、すぐにだらりと力なく落ちていった。


「……なんで……だ?」


雷獣はその光景が信じられなかった。夢ではないかと思ったほどに。

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