元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第四十三話 秘密主義

公開日時: 2020年10月3日(土) 07:00
文字数:1,664

「キヨちゃん……」


佳代がふらりと立ち上がり、キヨと呼んだ少女の方へと行こうとしている。


しかし、それは酒呑達の作った結界の外。


出てしまえば鈴鹿御前の気に押し潰されてしまう。


「……出たらあかんぞ、佳代ちゃん」


僧正坊の言葉に、咲耶達が佳代を止める。


「……ねぇ、キヨちゃんやろ?生きとったんか?」


佳代の問いかけに無言のままの少女。本当にキヨなのだろうか?姿かたちが同じだけではないのか?



「あなたはキヨって名前なのですか?」


鈴鹿御前の問いに首を振る。


「確かに、この身はキヨと言う少女のものでございます。しかし……」


少女はそこまで言うとぱたりと口を噤んでしまった。


廃村に静寂が訪れる。


その静寂を破るように、鈴鹿御前が口を開いた。


「しかし……?」


「……今は私が何者かと言うを明かす訳にはいかないのです」


「そんな……虫の良い話しが通用すると?」


微笑んでいるように見えて、鈴鹿御前の可愛らしい二つの目は冷たく光っている。少女はその目を見ても少しも動じる様子を見せない。


「分かっております。分かっておりますが、通用させなければなりません……」


柔らかい口調であるが、その裏に何事にも退かぬと言う強い意志がみえる。


「……」


「ただ……一つだけ言えることは、今はまだ、あなた方の敵ではない……という事」


「幾人かの命を取ろうとしたのに?」


「それについては……謝罪します。頼光が暴走した結果故……誠に申し訳ありません。私はあの四人の扉を解放したかっただけ……本当にそれだけが目的でありました」


深々と頭を下げる少女。


「それは御影様のする事……何故、あなたが?」


「……それも……言えません」


「あらぁ……徹底的な秘密主義ですわねぇ……その体に聞いても良いのですが……」


「それは……鈴鹿御前、あなたでは無理かと思います」


少女がそう言った瞬間、鈴鹿御前の檜扇が横に振るったが坂田金時の時のように、その波動が少女の体に触れる前にかき消されてしまった。


「あらぁ……」


波動を消されたのにも関わらず、嬉しそうに微笑む鈴鹿御前がさらに檜扇を半分程まで開いた。そして、それをまた横へと振るう。


先ほどと比べ物にならない位の波動が大気を震わせながら少女へと向かっていく。


相変わらず構える事もせずに少女は、自分へと向かってくるそれを見つめている。


やはり同じであった。


少女の体に触れようかとした時に、その手前で霧散し消えていく。


「大した神通力ですわねぇ」


ほわんとして可愛らしかった鈴鹿御前。しかし、今は額に太い角が二本、そして愛らしかったその口から鋭い牙が見えている。


どんっという衝撃と共に、鈴鹿御前の刀気がさらに強くなった。


さすがの頼光四天王達も耐えるのがやっとの様子が見てわかる。


そして、印を結ぶ酒呑達も同じである。


膝をつく茨木。


結界の一柱が崩れかけてきている。


そのせいか、佳代達にもずしりとした気が体へとのしかかってきた。


「しっかりせぇっ、茨木っ!!」


叱咤する酒呑。


しかし、無理もない話しである。


茨木は結界の柱となっている酒呑、玉藻、僧正坊、茨木の四人の中で実力が一ランク下であった。


本来、結界を張るのであれば、実力が同等の者同士が好ましい。しかし、今回はそんな悠長な事は言ってられなかった。


酒呑に応えようと震える足腰へ力を込める茨木。その体中に、そして、美しかった顔に太い血管が浮かびあがってくる。


ごぼり……


そんな時である。


再び立ち上がった茨木の口から、大量の血が吐かれた。最早、茨木の体も限界なのである。


だが、だからと言って弱音を吐くことはしない。


慕う酒呑の目の前であり、これからを託す佳代達の目の前でもあるからだ。


「この茨木童子を……舐めんじゃないわよ……」


血で汚れた口元。震える足。それでも印を結び耐える茨木。


そんな茨木を見ていた佳代達は無力な己らを許せなかった。


鬼切安綱を、菊一文字則宗を、備前長船長光を、三日月宗近を握る四人の手に力が入る。


「はぁい……そこまでよぉ」


場にそぐわない間延びした声が聞こえてきた。


その声を耳にした鈴鹿御前、そして酒呑達の顔が一斉に蒼白となった。

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