ぶわりと舞い上がるスカート。二つ結びの髪が佳代の体の動きに合わせ大きく揺れる。
「速いっ‼」
茨木が目を見張った。あの時、茨木と手合わせした時と比べ物にならない速さ。
それを何とか刀で防いだ頼光。しかし、その表情には先ほどの嘲りの表情はなく、眉間に皴を深く刻み込み、だらりと汗が額から流れ落ちてきている。
じりじりと押してくる佳代の腹部へ頼光が蹴りを入れた。後ろへと吹き飛ばされる佳代。そこへ斬りかかろうとする頼光へ、雨月の備前長船長光が唸りをあげて襲い掛かる。
「ちっ‼」
こちらも速い。防ごうとした頼光の刀を上へと跳ね上げてしまった。頼光の刀を跳ね上げた備前長船長光をくるりと返し、今度はそのまま斜め下へ振り下ろす。
咄嗟に後ろへと飛ぶ頼光。しかし、完全に避けきれなかった。右前腕部が斬り落とされている。
しかし、頼光もやられっぱなしではなかった。
大気を震わすような咆哮を上げると、その刀を振るい雨月へと斬り掛かる。片腕とは思えない怒涛の攻撃。
繰り出される剣戟に何とか応戦するも、頼光が雨月に刀気を溜めさせる暇を与えない。そうなると、長物の備前長船長光は不利であった。
ひゅっ!!
短く鋭い呼吸音。それと共に伊桜里の三日月宗近が空気を切り裂き頼光を斬りつける。
「ちぃっ!!」
浅かったが頼光の脇腹に鋒が滑り込むように入り、そのまま横へと抜けていく。脇腹を押さえ堪らず横へと逃げる頼光。その首筋にひやりとした嫌な感覚を覚えた。
その首筋に咲耶の突きが狙いを定めはなたれていた。
それを半身で避ける。しかし、それも想定の範囲であったのか、刀身を横に向けて突きを放っていた咲耶がそのまま刀を頼光の避けた方へと振るう。
仰け反り避ける頼光。しかし、僅かに咲耶の振るう菊一文字則宗が速かった。頼光の首筋を二寸ばかり鋒が斬り裂いていく。
ひゅうひゅうと斬り裂かれた喉から空気の漏れるような音を出す頼光。
最早、その表情には先程の余裕は消え、焦りの色が濃く浮かんでいる。
「まさか……これ程までとは」
妖魔であるためか、血が吹き出し撒き散らすことはないが、やはり体を斬り裂かれてしまうのはダメージになるのだろう。
「酒呑様……このまま」
ぐったりとしていた星熊が酒呑の側へと歩み寄り、期待のこもった目で四人の動きを見ている。しかし、酒呑や玉藻、僧正坊の表情は星熊のように明るくはなかった。
「……今は精神が肉体を無理やり引張ているだけなのよ」
玉藻かぼそりと呟いた。
「精神が肉体を……?」
「そうよ……確かに正統後継者としてちびっ子天狗達に認められ、その力を解放できた……でもね、それを使いこなすには肉体と精神が車の両輪のように噛み合い動かなきゃいけないの……だけど、今の彼女たちは肉体が追いついていない。精神だけで無理やり肉体をうごかしているのよ」
「……」
玉藻の言葉に黙り込んでしまった星熊。
「せやから、勝負つけんなら……」
酒呑が酒を一口煽り四人の方へと視線を向けた。同じように星熊も四人の方へ向いた。
確かにそこまで動いたわけでもない四人の息が荒い。
とんっ!!
酒呑達が見守る中、佳代が頼光へと仕掛けていく。それに続く雨月達。
何とかその攻撃に応戦する頼光も動きが鈍って来ている。
『早く勝負つえけんと……お前らの体がしまえてしまうでぇ……』
知らず知らずのうちに拳に力が入る酒呑。
そんな時である。
ぞわぞわっと酒呑の背中に寒気が走った。
「……やっぱり……来たかよ」
玉藻や僧正坊、そして茨木と星熊も同じく何かを感じ取ったらしい事がわかった。
「さぁ……吉と出るか凶と出るか」
もう一度、瓢箪へと口をつけ酒を流し込んだ酒呑が刀を掴み、すっと立ち上がった。それと同時に玉藻達もそれぞれの武器を手に取るといつでも対応できるように準備をしている。
甲高い金属音が廃村の中へと響き、頼光の持っていた刀が宙を舞った。
「佳代ちゃんっ!!」
咲耶が佳代の名を呼ぶ。それに応えるように、佳代が頼光へ渾身の一撃を放った。
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