それまでとは変わり、真剣な表情になった千草に、佳代達も姿勢を正し向き合った。
「ここ最近、妖魔ん数が圧倒的に増えました」
一同を見渡した千草がゆっくりと話し始める。
加藤家が守護する地域。それは、佳代の生まれ育った町よりも田舎で長閑な場所。
妖魔の数もそれ程多くはなく、加藤家だけで討伐も手が足りていた状況であった。
しかし、最近はその妖魔の数が増えてきているのだ。その事を危惧した加藤家が御影様の神社へと調査を依頼した。
そこで白羽の矢が佳代達に立ったのだ。
「それで、妖魔が増えた原因に心当たりなどは?」
咲耶の問いに千草が首を振る。心当たりがあるならわざわざ調査を依頼しないだろう。
「今、討伐しよるんは千草さんだけなん?」
それにも首を振る。
「以前はうち一人でも間に合うとったんやが……今は両親と親戚一同、それから式ば使役しとります」
四隅に座る少女と三人の童女をみる佳代。その幼い姿に妖魔と闘う姿が想像できない。
「あぁ……こん子達はこん家ん事ばしてもろうとる式ばい。妖魔討伐には別ん式ば使役するとです」
佳代の胸の内を読んだかのように千草も少女達、式に目をやると微笑みながら言った。
そして懐から厚手の和紙を取り出すと、さらさらと何かを書き始めた。書き終わると、印を結び何かを唱えだす。
すると、その和紙がふわりふわりと動き出し宙へと舞い始めた。
一応、式を扱う神貫家の咲耶は千草の動きを一瞬たりとも逃さないようにじっと見つめている。
宙に舞う和紙。
それが次第に形作られていく。
完全に姿を現した、三面六臂の大柄な女性。まるで阿修羅のようである。
「……凄い」
咲耶が驚きのあまりぼやっと口を開けて呆けた顔をしている。せっかくの美人が台無しである。
それはそうである。
咲耶が使役する式とは比べものにならない。
咲耶が使役できるのは精々、人形の和紙を操る程度。そして、それより巧みに式を使役する母や元四家筆頭であった祖母もここまでの式は使役できない。
しかも、この部屋には少女と童女の五体の式がいる。
「あと……この子の他に三体使います」
「あと……三体……」
「ばってん……私んすぐ側でしか使役できず、式ば使うた調査がでけんのですよ」
さすがにこれ程の式ならば、かなりの神通力を使ってしまう事もあり、遠隔での使役は難しいだろう。かと言って遠隔使役できる式を使うとなれば、一箇所で印を結び続けなければならない。
そうなると、今度は妖魔を討伐する事が出来ないのである。
それだけではない。
「恥ずかしながら……私ら加藤家は式を遠隔使役するのが大ん苦手で……戦闘型は大ん得意ばってん……へへへっ」
千草は頭を掻きながら、恥ずかしそうに言った。それでも咲耶は感心するしかなかった。近距離だけとはいえ、この他にさらに三体も使役できる同世代のこの少女に対し素直に尊敬の念を抱いた。
そして、もう一度印を結び呪いを唱えると、呼び出した女性の式を元の和紙へと戻した。
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