よく日焼けした肌。
短く切られた髪。
凛々しい眉に、意志の強そうな瞳。
そして、肩に担ぐように持っている十文字槍の片枝を短くした片鎌槍。
ぱっと見るとまるで少年のようであるが、その体つきは佳代よりも立派で、すぐに少女とわかった。
「私は加藤千草ちゅうもんです」
深く頭を下げ一礼する千草。佳代と咲耶も千草へと頭を下げた。
「加藤……千草さん?」
佳代と咲耶が互いの顔を見るが、二人とも千景には面識が無いようであった。
「あぁ……申し訳ねえ。私はこん地区ん討伐隊ぅ任されちょん加藤家ん者です」
「あら……あなたが加藤家の……」
「はい、皆様がちいと遅かったけんお迎えに上がった次第です」
遅かったから……
やはり、鴉丸は道に迷っていたのである。二人と一匹が鴉丸を見るが、とうの鴉丸は惚けるようにそっぽを向き、ぴいひゃらと口笛を吹いている。
「ほらね……やっぱり迷っていたんだよ」
猫又がちくりと小言を言うが、それさえも聞こえていない振りをしている鴉丸。
「まぁ……無事に迎えにも来て貰ったことだし……ねぇ、佳代ちゃん?」
「そうやね、ほら鴉丸もちゃんと千草さんにお礼を言わにゃ」
佳代から頭を撫でられながらそう言われた鴉丸は、小さな声でおおきにと呟くように言った。
「ははは、良いわあ。そげな事くらい気にせんでくりい。それよりも皆様、お腹空かれちょんやろう?」
その通りである。
ここら辺は本当に田舎でお店など何一つない田圃道。
誰も何も言わなかったが、三人と一匹はとてもお腹が空いていた。
「……はい」
佳代がお腹を押さえ、恥ずかしそうに答えた。
それを見た千草が、あははっと笑う。
屈託のない笑顔であった。
「そりゃそりゃ……ほいだら急いじ我が加藤家へと案内せなならんね」
千草はそう言うと、こちらやわあと佳代達を案内し始めた。
しばらく進むと、田圃の真ん中に鬱蒼とした森が見えてきた。
この辺りの鎮守の森なのだろうか。
森の入口と思われる場所に立派な鳥居が見える。
その鳥居をくぐり入っていく千草のあとをついて行く佳代は、思わず正やんのいる山の中の神社を思い出した。
懐かしい……
あの旅立ちからまだ半年も経っていない。
それなのにとても懐かしく感じてしまう。
「うちが故郷で修行した場所に雰囲気が、よう似とる……」
思わずそう呟いてしまった。
「正の山け?」
その呟きが聞こえた鴉丸が佳代へと尋ねた。
「鴉丸は正やんを知っとるん?」
「知っとるで。あんの犬っころとは昔、よう遊んだわ」
「犬っころ?そうなんね、昔からの知り合いやったとたい」
そんな二人の会話が耳に入ったのか、千草が佳代達の方へと振り返った。
「そう言えば、佳代様ん故郷はここからそう遠いくはねえはずやけんど、竹子様達にお会いになられたかえ?」
千草の言葉にふるふると首を振る佳代。
「まだうちは討伐士として半人前やけん……まだ帰るのには早か」
少し寂しそうにそう言う佳代。
「そうな……あん御影様ん元じ修行した佳代様達が半人前なら、私はまだまだ赤子同然やわあ」
「いやいやいや……そんな事は」
慌てて返す佳代に大きな口を開けて笑う千草。
そうこうしているうちに、神社の社が見えてきた。
古いがとても手入れの行き届いている社である。
「着いた、ここが我が加藤家や」
社の前に神主姿の男が一人、深々と頭を下げて立っていた。
「私ん父や」
「加藤清彦と申します。遠いいところから我が加藤家ぅ訪れち頂き、感謝します」
頭を上げた千草の父、清彦がそう言うと、佳代達も頭を下げた。
「こちらこそお招き頂きありがとうございます。お世話になります」
咲耶が清彦へと挨拶を返すと、千草が佳代達を社の中へと招きいれた。
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