元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第二十六話 鬼が出るか蛇が出るか

公開日時: 2020年9月29日(火) 07:00
文字数:1,957

妖魔の気配もなくしばらく歩き続ける伊桜里達の目の前に、少し開けた場所が見えてきた。その場所の中央には大きな大きな岩が地面よりにょきりと生えている。実際には生えている訳ではないのだろうがそれを目にした者にはそう見えてしまう様な岩であった。その岩には、注連縄が巻いてある。


「御神体か何かでしょうか?」


伊桜里がその岩に近づこうとした時である。小鷹丸がぐいっとスカートの裾を引っ張り、伊桜里の動きを止めた。スカートの裾を握る小鷹丸の手ががたがたと震えている。小鷹丸の尋常でない様子に気づいた雨月も小鷹丸へと近づいてくる。


「……駄目です。これ以上先へ進んでは駄目です」


震えながら、青ざめた顔でうわ言の様に繰り返し呟く小鷹丸。ぞわりとしたものが伊桜里と雨月の背中に走った。


「……なに、この気配は」


伊桜里と雨月の二人が小鷹丸を守る様に立ち、辺りを見回している。息をするのも重苦しい気配が辺りに漂っていた。


「……これはやばいね。吽、雷獣、紅葉、二人ともいつでも戦える様に準備しときなさい」


先程まで手を出すなと言っていた玉藻が三人へと戦う準備を促した。玉藻もいつの間にか、その手に薙刀を持っている。


「玉藻様っ!!」


側に駆け寄る雷獣と紅葉。


「慌てるなっ!!まだ手助けはするなよ?」


いつになく真剣な眼差しの玉藻に、びくりと動きを止める二人は、黙って伊桜里達三人の方へと視線をむけた。


「鬼が出るか蛇が出るか……」


雨月がぼそりと呟いた。全身に鳥肌が立っていた。小鷹丸が青ざめ震えるのもよく分かる。現に雨月も伊桜里もその気配に押され、体が押しつぶされるような感覚になっているのだ。


「鬼や蛇なら、まだ良かっただろうね……」


にたぁと笑いながら玉藻はそう言ったが、玉藻自身も薙刀を握る掌が汗で湿っているのが分かっていた。


『……何を考えているの、鈴鹿御前?』


玉藻はぺろりと唇を舐めると、その体にぎゅうっと刀気を充満させた。大地がびりりっと震えるような刀気。先程の雨月の刀気と比べ物にならない程に膨らんでいく。


その刀気に触発されたのか、ゆらゆらと岩の辺りに大きな空間の歪みと共に、大きな唸り声が聞こえてきた。そして、あの腐臭。


「斬れっ、伊桜里!!」


叫ぶ玉藻。その玉藻の声と同時に大地を蹴り、伊桜里が鞘から刀を抜き、歪みへと斬りかかった。






廃村の中心へと向かっている佳代達は、急にぞわぞわとした気配を感じ足を止めた。ちらりと鴉丸の方を見ると、鴉丸は目を大きく見開き、廃村の奥を凝視している。その顔は青ざめ震えていた。


「……やばいで、ほんまにやばい。こんな妖魔の気ぃ感じんの初めてや……」


「近いん、鴉丸?」


震える体を押さえ込みながら、廃村の奥を見つめている鴉丸に佳代が尋ねる。鴉丸は佳代の方へと顔を向けず、ただ先を見て答えた。


「いや、まだこの先や……それなのにこの気配、さっきのと比べ物にならんで」


佳代と咲耶は互いに顔を見合わせると、ぱちりと刀の鯉口を切った。


「あかんなぁ、熊に金熊」


「はい」


「いつでも行けるよう、準備しときや?」


鴉丸と同じように気配を感じた酒呑は、熊童子と金熊童子に声をかけた。遠くからでも伝わってくる、この気配の強さを感じているのだ。そして瓢箪の酒をぐびりと一口呑むと無造作に口を拭い、前にいる三人へと声をかけた。


「気ぃつけや、この先、ほんまにやばい奴おんで。下手したら命落とすかもしれん」


ゆっくりと先へと進む佳代達。一歩一歩進む度にその気配が濃ゆく、そして押しつぶされそうな程強く感じる。


「……小鷹丸」


鴉丸がぽつりと呟いた。咲耶が鴉丸の方へと振り返ると、鴉丸の目に涙が溜まってきている。


「小鷹丸ちゃんがどうしたの?」


「小鷹丸の気配もある。早う行かな、小鷹丸達、殺されんで!!」


その時だった。大きな刀気が地面を震わした。佳代や咲耶が感じたこともない強く大きな刀気。びりびりと痛い程に二人の全身を震わしている。


「玉藻の刀気や!!」


酒呑はその刀気の持ち主が直ぐにわかった。玉藻とは何度も手合わせをした事がある。本気で殺しあいをした事もある。だから間違うはずはない。西日本の鬼を纏め上げる酒呑。その酒呑と対等に戦える玉藻が、ここまでの刀気を出す相手。


「急ぐんやっ!!」


走り出す佳代達。気配が腐臭がどんどんと強くなり、息をするのも困難になってきた。鞘を持つ手が震えている。佳代はぐっと目を閉じ、そしてすぐに開いた。


怖い。怖い。怖い。


正直にそう思った。先程の妖魔と比べ物にならない気配と腐臭。そして、あの体を震わした刀気。私は戦えるのか?それとも死ぬのか?


「大丈夫や……うちらがついとる」


いつの間にか隣に並んで走っている酒呑がにやりと笑いながら佳代へと言った。佳代は酒呑のその言葉にそれにこくりと頷くと、再度、鬼切安綱を力強く握りしめるのであった。

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