二人の口からむにゃむにゃと発せられていた言葉が次第に大きくなり、この廃村を包み込む様にして流れていく。
「おいっ、僧正坊っ!!あの呪いはっ?!」
「……へぇ、あの二人が詠唱始めたで」
まるで唄の様に緩やかに、そして心地よく頼光と戦う四人の耳にも届いている。その詠唱を耳にした酒呑が僧正坊へと顔を向ける。僧正坊はにやりと酒呑へ笑いかけた。
「小天狗共が呪いを唱えたところでどうなるかっ!!」
ひしゃげた頭部のまま、四人の猛攻に何とか対応している頼光。潰れていない方の目をかっと見開き大声で怒鳴る。
「確かにあいつら半人前のちびっこ天狗や。でもな、それは鴉丸、小鷹丸が一人の場合やで?」
「……なに?」
「鴉丸と小鷹丸……あいつらが四家の正統後継者として認めると、二人は鍵となるんや」
「正統後継者?鍵……じゃと?」
「そや。四家の後継者はそれぞれの家で選ばれる。だかな、それと正統後継者は違うんや。正統後継者っちゅうのはな、御影様の任を受けたあの二人が決めるんや。あの二人はそういうのを見抜く力は御影様の次や。その二人が揃い鍵となり、正統後継者としての新たな扉を……精神の奥底に眠る扉の鍵を開けるんや。われは長い間、常世で寝とったさかい、知らんのも無理あらへんな」
ふふんっと笑う僧正坊。
「その細い目をおっ広げて、よぉく見とかんかいっ!!」
そう怒鳴りながら頼光の土手っ腹に強烈な蹴りを入れる酒呑。その威力で後方へと吹き飛ばされてしまった。
それでもゆっくりと立ち上がる頼光を四人は攻撃する手を止めて眺めているだけだった。
鴉丸と小鷹丸の呪いがゆるりと佳代達を包み込んでいく。
どくんっ……
佳代達は自分の体の中の気がかってない程に膨らんでいくのが分かる。そして、熱く火照っていく。
どくんっどくんっ……
急に心臓を鷲掴みにされた様な苦しさが佳代達四人を襲う。
「かはっ……」
咲耶が自分の胸を押さえ、片膝を地面へとついた。大量の汗がぼたりぼたりと落ちていく。
他の三人も苦しそうに顔を歪め、呼吸さえ困難な様子が伺えた。
「ここが踏ん張りどころよ……」
玉藻が肩で息をしながら四人の方をちらりと見て呟くように言った。
「おい化け狐っ!!なんや、息上がっとるやないか」
「そんなあなたこそ、ぜぇぜぇと酒くっさい息、永久に止めてもらえない?」
酒呑と玉藻の二人は、互いに息が上がっている事を貶しあっている。星熊と虎熊から貰った刀気ではやはり二人にとっては少なかったのであろう。半分ほどの力しか回復していないのだ。
「阿呆抜かせ……誰が」
「二人ともちいっと静かにせえや」
僧正坊が二人の間に入り制止する。
「今が佳代ちゃん達が一番きつい時や。それに……頼光が四人の邪魔せえへんようにうちらが護ってやらなどないする?」
茨木は佳代達四人の邪魔を頼光がしないように一時も目を離さずにその動きに注視していた。
「……ふん、良かろう。そこの四人がどうなるか見届けてやる……それもまた一興よの」
頼光はそう言うと、近くにあった手頃な岩へと腰掛けた。そんな頼光の体を禍々しい気が包んでいく。その気に包まれている頼光の傷ついていた体がゆっくりと回復していくのが分かる。
雨月が伊桜里が咲耶と同じ様に地面へと膝をついた。その中で佳代だけがゆらゆらと体を前後に揺らしながらも何とか立っている。
「……ほう、流石は竹子の娘やなぁ」
「血は争えないわね、あの慈花以来の才と言われた竹子の娘……でも、竹子の方が胸は大きかったわね?」
「あぁ……竹子はボインやったが、佳代はまな板や」
「……お姉様方?」
呆れた目で酒呑と玉藻を見ている茨木は、やれやれと大きくため息を一つついた。
『あなた達ならきっと耐えらるわ。だって正統後継者に選ばれた四人だから』
茨木はちらりと佳代達を振り返ると、大斧の柄を力強い握りしめた。
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