雷獣が覚悟を決めた時であった。
きらりと光る一筋の剣筋が目の前まで迫ってきていた妖魔の首を刎ねた。
首を刎ねられ動きの止まる妖魔。しかし、刎ねられた首がじろりと斬った相手を睨みつけている。
斬ったのは佳代であった。そしてその奥には、倒れている紅葉を抱えている熊の姿。
「さぁ、今のうちに!!」
佳代が雷獣へと手を伸ばす。それを掴もうとした雷獣がびくりとした。首のない妖魔がそろりそろりと歩み出したのだ。
「……逃がさぬ」
妖魔の足元に転がっている首が低くこもったような声でそう言うと、首無の身体が、さらに一歩、また一歩と近付いてくる。
そんな妖魔へさらにもう一太刀と佳代が斬り掛かるもふわりとその剣筋を躱されてしまった。そして、足元に落ちていた首を拾うと脇に抱えるように持ち、にたりとした笑みを浮かべた。
雷獣を守るようにその前に立っている佳代。しかし、その身体が小さく震えているのが雷獣には分かった。
怖いのだ。
それもそのはずである。これは訓練では無く、生きるか死ぬかの実戦。しかも今日が初めてなのだ。その初めての実戦に現れた得体の知れない妖魔。そのレベルは、つい先程まで相手していた妖魔達とは比べ物にならない。
ちらりと奥へと視線をやると、熊に抱えられ連れて行かれる紅葉が見える。一先ず紅葉の身の安全は確保された。安心したのも束の間、妖魔と対峙する佳代が小さな叫び声を上げた。
佳代の腕からぽたりと血が流れている。
にたにたと嫌な笑みを浮かべて、妖魔がその様子を眺めていた。
まただ……玉藻の刀気で動きを制限されているのにも関わらず、いつの間にか攻撃をしている。相手は妖魔であり、人間ではない。何かからくりがあるはずだ。必死に糸口を掴もうとする雷獣。だが切り落とされた腕からの出血で意識が朦朧としてきた。
そんな時である。
酒の匂いと共に、雷獣達の周囲が霧で覆われていく。その霧がどんどんと濃ゆくなり視界を奪われる雷獣の身体を何者かがぐいっと引き寄せた。
「……いくで、雷獣。しっかり捕まっとき」
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