「あかんのがくるっ!!」
三人へと叫ぶ鴉丸。その直後、佳代達は大きな神通力の渦の中へと飲み込まれていく。しかし、三人は鴉丸と千歳を守り抜かなければならない。そんな思いから、ありったけの刀気を振り絞り、濱田……サトの神通力を迎え撃つ。
その神通力を全身に受ける佳代達の刀と槍を握る掌が震えている。恐怖からではない。力一杯握っておかなければ、その神通力によって弾かれそうになるのだ。そして竜巻のように巻上がっていく風に吹かれて、佳代達の髪やスカートがぶわりぶわりと暴れまわっている。
「さすが……四家筆頭達ね……」
相変わらず余裕の笑みを浮かべているサト。
「濱田先生……あたは何者なんか?こぎゃん神通力ば今まで隠して……何ば企んで……」
振り絞るような声で尋ねる千草に、サトは彼女の方へと顔を向けた。そして、寛太の死体を跨ぎ三人へと近づいてくる。更に神通力の圧力が強くなった。
「私?私はね……かつてあなたの両親に討伐されたのよ?」
「お父さんとお母さんに……?」
「そう……二十年くらい前かしら……下北半島の恐山……名前位は聞いた事あるでしょ?そこで討伐隊を引き連れたあなたの両親にね」
「その復讐の為に……?」
「それもあるけど……それだけじゃないわ……」
微妙に千草の槍の間合いを外した所で距離をとる。この神通力の圧力の中では少しでも距離を詰めようと体を動かせばすぐに察せられてしまう。あと一歩……否、半歩踏み出せれば千草の間合いなのだ。だが、動けない。
「この土地はね……魂玉を作るのにとても適した場所なのよ」
「魂玉を作る?」
「そう……作るの」
「そして……妖魔にするとね……」
睨みつける千草達を人をサトが小馬鹿にしたような笑みを浮かべ見ている。
「魂ば弄んでそぎゃん楽しかか……」
「どうせたくさん未練を残した魂よ?ご希望通り、現世に残してあげてるんだから、逆に感謝してもらわなきゃよ?」
怒りに振るえている千草とそれを見て楽しんでいるサト。二人のやり取りを黙って見ていた佳代がどんっと言う音を鳴らし踏み込んた。
しかし、間合いが遠すぎた。鬼切安綱の鋒が虚しく空を斬る。
そして、それを二度三度と繰り返しては全て避けられてしまっている。
四度、佳代の鬼切安綱がサトから避けられた時である。
余裕の表情で避けたサトへ咲耶の刺突が襲い掛かってきた。佳代へと気を取られ一瞬の隙が生まれていたサトを咲耶は見逃さなかったのだ。
咲耶の菊一文字則宗がサトの喉を貫いた。その衝撃で飛ばされたサトが地面へと転がった。
『これば狙とったんかっ!!』
佳代が無謀とも思われる攻撃を仕掛けたのも、全てはサトの意識を自分へと集中させる為。そして、その時に生まれる隙を咲耶についてもらう。
言葉に出さずに伝わる四家同士の連携の見事さに、思わずため息のでた千草であった。
さすがに喉を貫かれたサトは無事ではあるまい。三人を押しつぶさんとしていた神通力も消えている。
倒れているサトへと近づこうとした千草を咲耶が止める。
「まだよ……」
その言葉が終わると同時にむくりと起き上がるサト。その白装束は自身の血で染まり、泥にまみれている。
だらりと口から溢れ出す血。
しかし、その顔は先程と変わらぬ笑みを浮かべている。
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