元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第二十七話 遊びましょう

公開日時: 2020年9月29日(火) 07:10
文字数:1,229

伊桜里の刀が宙を斬った。その瞬間、大きな怒号と共に伊桜里の体が弾き飛ばされた。何が起こったのか雨月には分からなかった。雨月の目には具現化する前の妖魔を伊桜里が斬った様に見えていたのだ。その伊桜里が弾き飛ばされた。


「……!!」


妖魔の姿がない。あれだけの気配と腐臭を出していた妖魔がどこにもいないのだ。弾き飛ばされ倒れている伊桜里の姿だけがある。


倒れている伊桜里の元へと雨月が駆け寄る。少し気を失っているだけであった。雨月に起こされ意識を取り戻す伊桜里は手に握られている三日月宗近をじっと見ていた。


「……確かに、斬ったはず……なのに」


妖魔の気配も腐臭もない。やはり斬ったのではないか?だが、肝心の魂玉が見当たらないのである。


「油断するなっ、まだ妖魔はいるよ!!」


玉藻が二人に叫んだ。その声ではっと我に返る伊桜里は、雨月の肩越しに見える岩の上に目が釘付けとなった。


月明かりに照らされ浮かび上がる岩の真上に、十歳位の年齢の少女が一人、伊桜里と雨月を無表情な顔でぼんやりと見下ろしていた。おかっぱ頭で着物姿の少女。市松人形を思わせる容姿である。


伊桜里の視線に気づき背後を振り返る雨月は、そこに立っている市松人形の様な少女に何かの言い知れぬ怖さを感じた。


「姉さま達……遊びましょう?」


鈴の転がる様な声。血で染められた様な紅い小さな唇だけが動いた。そして片手を上げると二人へと手招きをする。少女の方へと吸い込まれそうになる二人。


手招きをする少女の方へと吸い込まれるように、伊桜里と雨月がふらりと立ち上がる。必死で何かを叫んでいる小鷹丸。しかし、二人へその声は聞こえていないようであった。


そんな二人を見てちっと大きく舌打ちをする玉藻に雷獣が視線を送る。玉藻より手助けしろとの命令を待っているのだ。しかし、玉藻はまだそれを出さない。


「まだ……もう少し……」


自らの手に持つ薙刀が震えているのにも気がついていないようである。その間にも、二人はゆるりゆるりとした歩調で少女の方へと歩んで行く。


「玉藻様っ!!」


雷獣が堪えきれずに叫んだ。あと数歩で伊桜里と雨月の二人が少女の元へとたどり着いてしまうからだ。しかし、それでも玉藻は黙って見ているだけである。そして、その間も刀気を出し続けている。いくら玉藻とは言え、これだけの刀気を出し続けていると、身体に支障が出てきてもおかしくはない。


「少し静かにしなさい、雷獣」


丁寧だが有無を言わせない口調。玉藻の額に大粒の汗が噴き出している。


「言ったはずよ?これはあの子達が自分達の力で乗り越えるべき試練なの。私達が出来ることは最低限の手助けだけ」


伊桜里と雨月の二人が少女のいる岩の下にたどり着いた。二人は何かに取り憑かれているかのようにとろんと眠たそうな目をして、焦点が定まっていない。


「……姉さま、さぁ遊びましょ」


ふわりと岩の上から少女が飛び降りてきた。そして小さな青白い手を二人へと伸ばす。さらに近づく二人に、無表情だった少女がにたりと笑った。

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