ぴしりっ
魂玉にひびが入り、菊一文字則宗の鋒が魂玉に滑り込んでいき貫いた。その瞬間、魂玉が砕け散り霧散していくと同時に、雨月に斬られた胴体も共にぼろりと崩れ落ち塵と化した。
「やった!!」
伊桜里達が消えていく魂玉と胴体を確認すると喜色満面の笑顔になった。
「まだ、終わってなかよっ!!」
そんな三人の喜びを打ち消すような佳代の声が聞こえた。佳代の方へと振り返る三人。その表情が一瞬で変わる。なぜなら、佳代が持っていた妖魔の頭部が消えずに残っていたからだ。
しかもその頭部が発している妖力はとても強く、動かないように持ち続けている佳代の額には玉のような汗が次から次に噴き出しては流れ落ちていく。
「……なんで?魂玉は消滅したはずなのに」
信じられないと言うような表情で咲耶が呟いた。伊桜里も雨月も同じである。
「ごく稀にいるのよ……複数の魂玉を持つ妖魔が」
「複数の魂玉を持つ妖魔……」
その三人へ玉藻の言葉が聞こえてくる。呆然としている三人。
「何を呆けとんのやっ!!はよう、佳代を助けたらんかいっ!!」
三人を現実へと引き戻す酒呑の怒号が響く。びくりと反応する三人が急いで佳代の元へと向かった。佳代の押さえつける両手にぎりぎりと歯軋りをしながら向かってくる三人を睨みつける妖魔の頭部。
「お願いやけん……大人しくせんねっ!!」
佳代が妖魔へと無茶なお願いをしている。そんなお願いを妖魔が聞くわけがない。ぶるぶると両手の震えが止まらない。そろそろ佳代にも限界が近づいてきた。
「佳代ちゃんっ!!」
咲耶達が佳代の元へと集まってきた。そして、咲耶が菊一文字則宗を構え、佳代の持つ妖魔の頭部へと振り下ろそうとした時である。
大地を、そして廃村全体を震わすような大きな音がその場にいた全員を襲う。
頭部を押さえつけていた佳代はもちろん、咲耶達三人がその衝撃で吹き飛ばされてしまった。少し遠くに離れていた者達も飛ばされないように必死に耐えている。
その大きな音の発生源は妖魔の頭部であった。
大量の土煙が頭部を包み、その詳細をはっきり見ることが出来ない。
飛ばされてしまった四人が立ち上がり、急いで頭部の元へと駆け寄ろうとした時、酒呑に止められた。
「近づいたらあかんっ!!……死ぬで」
立ちのぼる土煙が先程よりも薄くなってきた。その中に薄らと見える成人男性程の人影が一つ。そこにあったのは妖魔の頭部だったはず。
「とうとう、本性表しよったなぁ……頼光」
絞るようにそう言った酒呑の額にだらりとした汗が流れ落ちていく。その近くにいた熊と金熊も震えが止まらない様子だ。
「……頼光?頼光とは……あの?」
咲耶が酒呑の方へと向き尋ねた。それに無言で頷く酒呑。近くにいた玉藻達も驚いている。
「まさか……なんで?」
「知るか呆け。うちが聞きたいわ。まぁ……本人もおる事やし直接聞いたらええやろ?」
土煙の中から頼光と呼ばれた人影がゆっくりと姿を現してきた。まさにタイムスリップしてきたかのような鎧姿の武者である。
「久しぶりだな……酒呑」
鎧姿の武者は佳代達へと目もくれず、真っ直ぐに酒呑だけを見てそう言った。
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