土煙の中から現れた千草と四体の式。しかし、その四体の式は佳代達が思い浮かべていた姿とは遠く離れているものであった。
ちんまりとしている。お世辞にも獄卒達を相手に出来るのかと思われるくらいに。あれほどの神通力を発していた千草。戦いの途中であるはずの佳代と咲耶が驚きを隠せていない。
そう、四体全ての式が七歳程の童女なのである。その童女がそれぞれの武器を手に持っている。
「侮るなかれ……姿は幼かがそん実力は、うちん式ん中でも最強ん四体。四方ば護る四神に仕える護法童子ばい……」
ぴょんこぴょんこと千草の周りを楽しそうに駆け回る四体。遊びに来たのかと思うくらいであった。
「千草ぁ、千草ぁ、吾らはあの鬼たちをやっつければ良いのか?」
「千草ぁ、千草ぁ、吾と遊んでくれんかのぉ?」
「千草ぁ、千草ぁ、久しぶりじゃの」
「千草ぁ、千草ぁ、あの二人はなんぞ?」
四体が一斉に千草へと話し掛ける。しかし、その間もぴょんこぴょんことその周りを楽しそうに回っていた。
「あん二人は私達ん仲間。そして鬼は敵ばい。まず、うちと遊ぶ前にあん鬼達ばやっつけよう」
「あい、承知仕つった!!」
千草の言葉に元気よく返事をした四体がそれぞれの武器を手に獄卒達へと切り込んでいく。
「吾は北を守護する玄武様に仕える北門童子なり」
北門童子は自身の体よりも大きな大槌を軽々と振りかぶると勢いよく獄卒達の頭上へと叩きつけた。大地を震わす轟音と共に幾体もの獄卒達が吹き飛ばされる。
「やぁやぁ吾はぁ南を守護する朱雀様に仕えるぅ南門童子なりぃ」
弓を天に向けて構える南門童子が一本の矢を放つ。天に向かって放たれた矢が、美しい弧を描き天から地へと鏃を向けた時である。一本だった矢が二本に、そして四本にと落下しながら増えていくではないか。しかも、鏃が真っ赤な炎を宿している。まるで天から火の雨が降ってきているようだ。その矢が次々に獄卒達の頭上へと降り注がれていく。
「吾は東を守護する青龍様に仕える東門童子なり」
東門童子は小さな手に握られた薙刀のような武器を頭上でくるくると回しながら獄卒達の中へと突っ込んでいく。しかし、その薙刀は佳代達の知っている薙刀とは違い、刀身の幅がとても広く、そして三日月のように反っている。所謂、青龍偃月刀《せいりゅうえんげつとう》である。三國志の関羽が愛用していた事でも知られる武器。余談であるが、日本で言う柄の短い青龍刀と呼ばれる中国の刀の実際の名は柳葉刀である。小さな体で獄卒達をまるで雑草を刈り取るかのように薙ぎ倒していく。
「えぇっと……わ、吾は西を守護する白虎様に仕える西門童子なり」
両手に握られた二振りの短刀。するすると獄卒達の間をすり抜けながらその首を掻っ切っていく。西門童子が去った後に、ばたりばたりと獄卒達が倒れていく。
確かに千草の言う通り、見た目は幼く可愛らしい童女達であるが、その戦いぶりは鬼神と呼んでもおかしくはない。確かに護法童子と言う呼び名であり、その多くは童子姿の事が多いが、他には鬼神や神霊なども多いと聞く。やはり見た目は童子でも中身はその類などであろう。
四体の戦いぶりを見ている佳代と咲耶と千草は互いに顔を見合わせた。
「私達も続きましょうっ!!」
「負けてられんねっ!!」
「はいっ!!」
佳代達三人の鬼切安綱、菊一文字則宗、そして片鎌槍が獄卒達を斬り貫いていく。
「あいあいあいあい、千草ぁ、千草ぁ、吾らが四方を護ろうぞ」
「護ろうぞ、護ろうぞ」
童女達が四方へと散開して行く。そして、東西南北、それぞれの位置につくと印を結び呪いを唱えだした。
賽の河原に結界が張られた。
三途の川から賽の河原へと渡ってこれない獄卒達は、その結界に触れると肉を熱した鉄板に押し付けたような音と共に霧散して消える。
「やいやいやいやい、鬼共、鬼共。これでここへは入ってこれまい」
結界の中の獄卒達は粗方片付けた三人の先に、サトが岩に腰掛けている姿が見えた。
「まさか……千草さんがここまでの式を使役できるとはねぇ……」
独りごちるサトへと詰め寄る三人。しかし、サトはそんな三人を見つめているだけである。
「さぁ、これで邪魔は入らん。決着ばつけよう、先生」
「……そうね、そうしましょう」
ゆらりと立ち上がるサト。そのサトに印を結ばせる暇を与えぬよう、千草がサトへと攻撃を仕掛けた。
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