元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第六話 張り込み

公開日時: 2020年10月5日(月) 12:00
文字数:1,334

そして、その夜である。


佳代達は四組に分かれ、千草の言っていた四組の家族が住む家を見張っていた。もし、この四組の家のうちの誰かが神通力を持っているのなら、何かしらの動きがあると千草達は考えたのだ。


かちり……


鴉丸の持つ懐中時計が亥の初刻を指した。妖魔が出現し始める時刻である。今の所、何も動きはない。


佳代と鴉丸は物陰に身を潜め、四組のうちの一組である疎開後もそのまま住み続けている相川家を見張っていた。相川家には佳代と同じくらいの年の女の子と、二つ下の男の子と、その両親が住んでいる。


何の動きもないまま、子の正刻を回った。


「戻ろう、鴉丸」


子の正刻まで動きがなかったら、一旦社へ戻る、そう取り決めしていた佳代達。


張り込みが余程退屈で疲れたのか、大きく背伸びをする鴉丸。その顔はとても眠たそうにしている。


「ほな、早く加藤家に戻ろか?」


鴉丸が佳代の手を引っ張りながら社へと戻る催促をした時である。


遠くの方から妖魔の気を感じた。それも、千草が言っていたような弱い妖魔ではなく、かなり大きく強い妖魔の気である。何十人もの魂を食べてきたようなそんな妖魔の気。


「佳代っ!!」


頷く佳代が鬼切安綱を握りしめ、妖魔の気のしている方へと走り出した。




一方、咲耶の方は、猫又と一緒に同じく疎開後から住んでいる山田家を張り込みしていた。ここは両親と佳代達よりも少し小さな姉妹が住んでいる。これと言った神通力や妖気を感じることは無い。


田圃に水が張ってあるせいか、蛙の鳴き声がやたらと聞こえてくる。ちらちらと蛙の鳴き声の方へと目を向ける咲耶。咲耶は蛙がほんの少しだけ、ほんの少しだけだが苦手なのである。


ぎゅっと握りしめる愛刀の菊一文字則宗。その鍔から鞘にかけて和紙で包まれている。刀気が刀から盛れ出さないように封が施してあるのだ。せっかく張り込みをしていても、滲み出る刀気を相手に気づかれては元も子もないのである。


にゃぁご……


山田家の方から一匹の野良猫と思われる猫がのっそりと姿を現した。その猫が猫又へと擦り寄っていく。


そして、にゃぁにゃぁと話しかけるように又猫へと鳴くと、そのまま茂みの中へと消えて行った。


「咲耶……どうやらこの家は白みたいだよ?」


猫又が咲耶の横にやって来てそう言うと、ふにゃぁと大きな欠伸をした。


「さっきの猫の報告?」


「そうさ……あの猫の話しだと亥の正刻にはみんな寝てしまっていたそうだ」


ちらりと懐中時計を確認すると、既に子の正刻。


「戻ろうか、咲耶。私は眠たくてしょうがない……」


猫又がまた大きな欠伸をした時である。大きな妖魔の気を感じた。


「……咲耶」


「えぇ……」


咲耶と猫又は顔を見合わせると急いで妖魔の気の方へと走っていく。


そして、咲耶達が走り去り、姿が見えなくなった時である。寝静まっていたはずの田中家から一人の女が姿を表した。その手には何やら文字の書かれた袋を持っている。


その袋の中へと手を入れると一つの小さな玉を取り出した。虹色に輝く直径一寸程の玉である。


それを握りしめると何やら呪いを唱え始めた。するとその玉がふわりと宙へ浮き、ゆらゆらと飛んでいくではないか。


「さぁ……あなたの残したその強い想いを見せてあげなさい」


女は飛んでいく玉を見送ると、また、家の中へと入っていった。


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