ぐらりと揺れる地面。しかし、それは一時的なものであった。すぐに揺れが収まる。
「確かにあなたは強い。でもね……それだけじゃ、ご両親の足元にも及ばないわ」
そう言うとサトはぺろりと唇の端を舐めた。
「一つ」
人差し指を立てた。その時である。北を護っていた北門童子の体を地面から突き出した土の槍が貫いた。
「すまんのう、すまんのう、千草。吾はここまでじゃ」
煙のように消えていく北門童子。土の槍に貫かれた札だけが残っている。
「二つ」
さらに中指を立てるサト。
同じ様に南門童子が体を貫かれた。
「あやあやぁ……さらばじゃ、さらばじゃ、千草」
「三つ」
薬指を立てようとしたサトへ千草が攻撃を仕掛ける。だが、時既に遅し。きゃっと言う悲鳴と共に西門童子が消えた。
呆気なく三体の式を消された。千草が最強だと誇る式、護法童子。それがいとも簡単に。
「……っ!!」
刺突をするりと避け、槍の穂先に立つサトが笑っている。お前の槍さばきなど通用しないと、笑っている。
「一体は残しててあげるわ」
まるで槍にその重たさを感じさせない。これも実体ではないのか。しかし、あの紅蓮の炎。あれは実体の中に燃え盛る炎である事には間違いない。動揺の隠せない千草。それを嘲笑うサト。
「どうしたのかしら、あんなに息巻いていたのにね」
為す術がない。
じとりとした汗が千草の全身から吹き出してくる。服がべたりと肌へへばりつく。
「やいやいやいやいっ!!千草よ千草っ!!」
そんな千草に東門童子がその名を呼んだ。ぴょんこぴょんこと跳ねるように近付いてくる。
「ぬしは何を絶望しとる?何を諦めとる?ぬしは最善を尽くしたか?ぬしは全てを出し切ったか?違うじゃろう?ぬしは吾ら護法童子を呼べる術士ぞ?やってやれい、やってやれい」
ぐるぐると青龍偃月刀を振り回し駆け寄りながら千草を怒鳴りつけた。
「騒がしいおちびちゃん……やっぱり消えて貰うわ……四つ」
地面から土の槍が飛び出し東門童子を襲う。だが東門童子はそれをするりと躱す。立て続けに襲い掛かる土の槍。右に左にぴょんこと跳ねて周り身軽に避けている。
「阿呆、阿呆。結界術を敷いていた時とは違うぞ違う。簡単には当たらんて」
東門童子は楽しそうにきゃっきゃっと笑いながら飛び跳ねまわる。
いらっとした表情がサトに浮かんだ。それを煽るかのように東門童子が舌をぺろりと出す。
あっかんべえ。
完全に馬鹿にしている。
「怒ったか、怒ったか」
サトが東門童子に向け何かの呪いを唱える。しかし、そこに一瞬の隙が生まれた。
槍の穂先を一気に引く。足場を急に失ったサトの体が僅かに揺れる。
それを見逃す千草ではない。
豪っ!!
唸りを上げてサトへ槍を繰り出す。
「馬鹿の一つ覚えの刺突」
そう同じである。先程の刺突と。息もつかせぬ程に繰り出していく。
するりと避け続けるサト。だが、それを追いかける様に千草の刺突は止まらない。
一つ、また一つ。かすり傷ながら、千草の槍がサトの体を傷付けていく。さらに速度と手数を増やしていく千草。
流れ落ちる汗。舞い上がるスカート。鍛え上げられた千草の太腿が顕になっている。
「しつこいわね……」
印を結ぼうとしたサトの右手上腕が貫かれ吹き飛ばされた。
「……っ!!」
本来ならじわりと削りれ減っていく刀気がぼわりと膨らむ。その刀気の大きさが佳代達へと伝わってくる。
徹底的に繰り出す刺突。
確かにそれしかないのだ。下手な小手先の技は通用しない。ならば、馬鹿の一つ覚えと言われているこの刺突を繰り出し続ける。持てる力を全て使い果たすまで。
「まだじゃ、まだじゃ。まだ序の口じゃぁっ!!」
いつの間にか佳代達の側へと来ていた東門童子が嬉しそうに言った。そして、佳代達を捕らえている地面に触れ何かの呪いを唱えだした。
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