「……なんや頼光やないけ?われぇ、黄泉の国でのんびり昼寝しながら過ごしとったんちゃうんか?」
頼光と呼ばれた鎧姿の武者は顎髭を撫でながら、少し困った様に笑った。
「そうじゃ……そのつもりじゃったがのぉ。なんや知らん小娘に呼び出され、この有様じゃ」
「小娘に呼び出された……やと?」
「そうじゃ……反魂の術式を使われたんじゃな。しかし、かなりの神通力を持っておる小娘じゃ……」
どこかのんびりとした口調である。先程までここにいる全員を殺そうとしたのが嘘の様に……
「……で、なんや?われぇ、その小娘とやらの口車に乗せられ、うちらを殺そうとしたんかいな?」
「阿呆……それは儂の意思じゃ。小娘曰く、未だ現世では、鬼や妖達が昔と変わらず悪行三昧。儂にその妖と鬼退治を依頼したのじゃ。それを儂が快く引き受けた……と言う事じゃ」
「なんやそれ?思いっきり口車に乗せられとるやないかいっ!!」
「……そうかの?妖も鬼も……その存在自体が悪じゃからの。途中でその娘らの邪魔は入ったが、うぬらをもう一度、征伐してやろうぞ」
すらりと腰の刀を抜刀する頼光。
「笑わせるな呆けぇ。今回は騙し討ち出来へんのやぞ?しかも、頼りの四天王もおらんのに、うちらを征伐するやと?寝言は寝てからいうもんや」
くっくっくっ……
酒呑の言葉に笑いを必死で堪えている頼光は、我慢が出来なくなったのか大きな声で笑いだした。そんな頼光の姿を呆気にとられた様子で見ている酒呑達。
そして一通り笑うと、頼光はすっと真顔になった。
のんびりとした様子が微塵にも感じられない。その体からは禍々しい気が滲み出ている。その気に触れた地面の雑草が萎びていく。
「……真の阿呆とはぬしの事じゃな、酒呑。ぬしが麓の村村から娘らを拐かし、毎晩の酒池肉林の宴。そんな中に正々堂々と突っ込む阿呆がおるか?ぬしらだけなら話しは別じゃったがの。それに今のぬしらなど儂一人で十分じゃろ?」
確かに頼光の言う通りである。玉藻に酒呑は、先程から刀気を発し続け疲労困憊であり、金熊達も雨月達に気をやり戦える状態ではない。
そんな酒呑へと近づいていく頼光。
その頼光の前に佳代達四人が立ち塞がった。すると佳代の持つ鬼切安綱に目をやる頼光がにやりと笑った。
「ふん……それは源家相伝の刀、鬼切安綱。ぬしのような小娘が持つものではない。さぁ、返してもらおうか」
佳代へと手を伸ばす頼光に、横から咲耶が斬り掛かる。だが、それを無銘の刀でいとも簡単に跳ね返してしまう。
「……逃げるんや、佳代っ!!」
酒呑の言葉が耳へと届くが、佳代の両足は大地に根が張った様に動かない。ゆっくりと近づいてくる頼光。
雨月と伊桜里も斬りつけるが、結果は同じであった。
「引っ込んでおれ……弱き者達よ……」
佳代がいくら全身に力を入れても、体中を太い縄で締め付けられている様に動かす事が出来ない。
恐怖からではない。
何か強い念が佳代の体を蝕んでいるのだ。
頼光の手が佳代の体へと触れようとした……
「このぉ……変態親父がぁっ!!」
凄まじい轟音と共に上がる土煙。それまで佳代の体にまとわりついていた念の様な物が消えている。
けほけほと咳をしながら、薄れていく土煙の中に見覚えのある姿を見た。
現れたのは、緩く巻かれたパーマネントをあてた髪が僅かな風に吹かれて靡く。その豊満な胸がぷるんと揺れ、そして……華奢なその腕で勇壮に身の丈以上の大きな斧をぶうんと一振、軽々と肩へと担いだ綺麗な女性である。
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