元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第八話 四家

公開日時: 2020年9月3日(木) 07:09
更新日時: 2020年10月18日(日) 23:20
文字数:1,866

「鬼切安綱……鬼丸おにまる竹子様が長女、鬼丸佳代……」


向かいに座る少女がぽつりと口を開いた。それは、佳代に話しかけたと言うより、まるで自分自身に確かめるような口調である。


少女にじっと見つめられている佳代はなんだか居心地が悪くなり、少女にへらっと笑いかけてみた。


それでも無表情の少女は、佳代のつま先から頭のてっぺんまでをじろじろと見てはぶつぶつと何かを呟いている。


そんな少女の膝の上にいる三毛猫がちらりと少女を見上げると、とんとんと前足で膝を軽く叩きながら話しかけた。


「おいおい、咲耶さくや。あんまりじろじろと人を見るもんじゃないよ、失礼だ」


三毛猫の言葉にはっと我に返った咲耶と呼ばれた少女は、少し頬を赤らめながら俯き上目遣いで佳代の方を見ている。


「私ったらなんて失礼な事を……本当にごめんなさいね……私、夢中になると周りが全然目に入らなくて……」


小さな声で謝る咲耶に佳代は大丈夫ですと返すと、ほんわりとした笑顔を浮かべた咲耶が突然、佳代の手を握ってきた。


「申し遅れました……私、神貫かんぬき家の長女で咲耶と申します。貴女はかの有名な鬼丸竹子様の長女、佳代さんですよね」


きらきらとした眼差しで佳代を見つめながら自己紹介をする咲耶に、佳代は少し戸惑ってしまっている。しかも、母親である竹子が有名だなんて初耳であり、また神貫家と言われてもまるでぴんと来ない。


「ねぇ、火矢。お母さんってそげん有名人とね?それに神貫家ってなんね?」


ぼそぼそと肩の上にいる火矢へと話しかける佳代。そんな佳代にびっくりした様子の火矢は、


「そやでぇ、知らんかったんかいな!!」


と、あからさまに大袈裟な素振りで羽根をぱあっと広げた。


「うん、お母さんとそげんな話しばした事なかけん。お父さんともやけど……」


「そっかぁ……まぁ、その話しは今度じっくりと教えたるわ。あと、神貫家っちゅうのはな、佳代ちゃんや竹子の鬼丸家と並ぶ妖魔退治を生業とする由緒ある家系の一つや」


「妖魔退治ばする由緒ある家系の一つ?」


「そや、鬼丸家、神貫家、鬼怒笠きぬがさ家、金剛こんごう家。この四つの家が所謂、四家が日本各地で妖魔退治を行う討伐隊を束ねとる主たる家系や」


佳代にとって火矢の話しの全てが初耳であった。竹子も正やんも全く教えてくれなかったのだ。


この一年間、刀の使い方、妖魔退治の基本やなんやらはみっちりと仕込まれたのにだ。肝心の基礎知識は零である。


「咲耶、この子はなんにも知らないみたいだねぇ。少しあんたからも教えてやりなよ」


少し呆れたような素振りで咲耶へと話しかける猫又はそう言うと、ぺろりと前足で顔を撫でている。


そんな三毛猫にまでへらりと愛想笑いをしてしまった自分が嫌になっている佳代であった。


そして、佳代は自分の生い立ちと妖魔退治の道へと踏み込んでしまった理由についてを簡単に話した。


「なるほど……」


黙って話しを聞いていた咲耶は、まるで探偵小説に出てくる探偵の様に顎を擦りながらうんうんと唸っている。少し、風変わりなお嬢様のようである。


「そうですわね……紀伊の熊野をご存知ですか?熊野大宮大社のある……」


それくらいなら佳代にも分かる。熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社を合わせて熊野三山と言い、家津美御子大神スサノオノミコトを主祭神とする。


「そこを境にして西側を我が神貫家と鬼丸家、東側を鬼怒笠家と金剛家に分かれて守護しております。そして、その四つの家を束ねるのが今から向かう神社におられる御影様と呼ばれるお方ですわ」


そう言うと咲耶は喉を潤すためか、水筒に口をつけた。佳代も水筒を取り出しお茶を飲むと、話しの続きをしっかり聞こうと身を乗り出して構えた。


「そして鬼丸家は鬼切安綱。神貫家は菊一文字則宗。鬼怒笠家は備前長船長光。金剛家は三日月宗近。刀を見ればどの家の者か分かります」


「やけんで私が鬼丸家ってすぐに分かったったいねぇ」


佳代は咲耶の話しに感心し、鬼切安綱をしげしげと眺めている。そんな佳代へ自分の菊一文字則宗を手渡す咲耶。


「抜刀して見てくださいな」


咲耶から刀を受け取り、佳代が柄に手をかけ抜刀しようとするが、不思議な事にうんともすんとも動かず鞘から刀が抜けない。


そんな佳代の様子をうふふっと笑いながら見ていた咲耶は佳代から刀を返して貰うと、するりと抜刀してみせた。


まじないがかけられているのです。鬼切安綱は鬼丸家の者、菊一文字則宗は神貫家の者。それぞれの家が持つ刀は、その家の者しか抜刀できないのです」


きらりと光る菊一文字則宗の刀身をうっとりとした表情で見つめる咲耶は、ぱちりと刀身を鞘へと納めると自分の脇へと丁寧に置いた。

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