鉄棒を手に三人へと近づいてくる獄卒達。その耳まで裂けた口からは鋭い牙とだらりと垂れる涎が糸を引いている。
賽の河原にいた獄卒達はぞろぞろと数を増やし、ぐるりと佳代達三人を囲んだ。互いに背を預け構える三人。
そんな中、千草がサトへと問いかけた。
「それがあんたん大義名分ね?それで、たくさんの人々ば殺し、魂玉ば作って……」
「悲願成就に多少の犠牲はしょうがないのですよ」
サトが千草の問いに答える。その答えを聞いた千草が悲しそうな顔になった。
「しょうがなか……やと?そればあんたが言うんか?それじゃあ、戦争ば起こした大人達となんも変わらんやなかか……」
「変わらない……ですって?」
千草の言葉を受け、サトがぎろりと睨みつける。それを返す千草。
「なにも変わらんばい……戦争ば起こした人達も、勝つためなら多少ん犠牲は……って思うとったはず……あんたもそうなんやろ?そん子らば救うためなら……」
振り絞るような声。槍を持つ手が震えている。じわりじわりと獄卒達が囲みを小さくしていく。それでも千草は話すを止めない。
「そん子らにも残された父母がおったはず。愛する幼い我が子ば失い、苦しみや悲しみば抱えて……やけん……こん子らは石ば積むんやろう?あんたん殺した人達も同じばいっ!!残された人達がおる。愛して止まんかった人達がおる。そん人達に、こん子らん父母と同じ思いば背ばわせとるんやぞっ!!」
獄卒達が一気に襲い掛かってきた。
佳代の鬼切安綱が襲い掛かってくる獄卒を袈裟懸けに斬りつける。斬られた獄卒が霧のように消えていく。咲耶も千草も獄卒達へと応戦する。
獄卒達の間を蝶のように舞いながら、首を胴をそして四肢を斬り落とす咲耶。鋭く速い刺突で襲い掛かっくる獄卒達を貫いていく千草。しかし、獄卒達は三途の川を渡って次から次へとやってくる。きりがない。
「確かにあなたの言う通りでしょう……だけど、妾はなんと言われようが……この子達を救う為に魂玉を集めます……」
「なら……私があんたを止めるてやるけん」
「やれるものなら……どうぞ」
多勢に無勢。次第に押され、疲れの見えてきた佳代達に、サトはくるりと背を向け少し離れた所に歩いていく。
「待たんねっ!!」
「別に逃げませんよ……この先で待っていますので、まずはその獄卒達をどうにかしてください」
ちらりと振り返りそう言ったサトが、三人の視界から消えていく。それを追うにも獄卒達が邪魔をして前に進めない。
「佳代さん、咲耶さん、私に少しだけ時間ばくれんね」
そう言った千草が懐より四枚の厚手の和紙と矢立を取り出すと和紙へ筆でさらさらと呪いを書き始めた。
「分かった、任せとって!!」
佳代と咲耶は互いに顔を見合わせ頷くと、千草を獄卒達から守るように立った。
「神貫咲耶……行きますっ!!」
豪っと言う音と共に、咲耶の放つ刺突が数体の獄卒達を一気に貫く。柔から剛。ふしゅうと漏れる咲耶の吐息。その体から溢れる刀気に恐れ知らずの獄卒達の動きが止まる。
「さすが、四家筆頭たい!!うちも負けておれんばいっ!!」
佳代の目の前の獄卒が鉄棒を振り上げた瞬間、その胴が真っ二つに分かれた。そして、その刃を返すと直ぐに横にいた獄卒の首を刎ねる。ふわらと舞い上がる佳代のスカート、ゆらりゆらりと体の動きに合わせ揺れる二つのお下げ髪。
その時である。
後方で呪いを唱えていた千草の神通力が一気に膨らむと、空気の弾けるような音が四回、辺りへと響き、土煙が巻き起こった。
「またせたばい……さぁ、一気に形勢逆転しようかね?」
土煙の中から薄らと見える五つの影が、ゆっくりとその姿を現した。
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