社へと上がった三人と一匹は、千草から奥の部屋に案内された。
部屋に入ると千草が持っていた片鎌槍を壁へと無造作に立てかける。まるで、傘でも置くようであった。
三人はすすめられた席へと座ると、巫女姿の少女がタイミング良くお茶を運んできた。
お茶の良い香りがする。
「少し先にお茶ん産地があるけんね。こりゃ蒸し製玉緑茶て言うて、葉ん形ば整えとらんけんぐにゃぐにゃと曲がった葉ん形ばしとるんばい。それでグリ茶とも言われ、さっぱりとした味んお茶ばい」
ゆっくりと口に運ぶ三人。
そのお茶を一口啜るとさっぱりとしたお茶の味とその香りが口から鼻へと抜けていく。
「あぁ……美味しい」
咲耶が満足気な表情でほうっと一息ついた。
それを見た千草はとても嬉しそうであった。
その時である。
ぐうぅっと腹の虫が静かな部屋の中へと響いた。誰の腹の虫であろうか?
互いに顔を見合わせる三人だが、その三人共が顔を真っ赤にしている。
そう、三人が三人共に腹の虫を鳴らしてしまっていたのである。
「恥ずかしか……」
恥ずかしさから火照る顔を手で扇ぐ佳代。そんな三人を見て千草が必死に笑うのを堪えている。
「少し待ってくれん。御膳ば準備しとるけん」
昼食の準備をしている間、千草とこの辺りの妖魔の事や、御影様との修行、そして、その前に起こった出来事などについて話した。
「そう言えば、千草さんはあの片鎌槍をお使いになられるのですね?」
咲耶が壁に無造作に立てかけられた槍に視線をやると千草へと尋ねた。千草も同じように槍へと視線を向けた。
七尺はあろうかという思われる槍身。かの加藤清正公が使っていたとされる片鎌槍。
「妖魔討伐よりも虎退治ばした方が様になる槍ばい。長かばってんたいぎゃ扱いやすかばい」
すっと立ち上がった千草が片鎌槍を手に取り軽々と持ち上げる。
佳代達が使っている刀よりも全然重たいはずであるが、千草の様子からそんな風には見えない。
「持ってみます?」
佳代と咲耶は立ち上がると、まずは佳代から片鎌槍を受け取った。
ずしりとした重みがその手に伝わってくる。刀の比ではない重さ。持ち上げたが重くて千草のようにはいかない。
そして、槍を咲耶へと渡す。
咲耶も同じであった。その槍の重さに驚きを隠せない。
「こんなに重い槍を軽々と……鍛錬の賜物ですね……」
「いやいや……馴ればい、馴れ。うちゃ槍一筋でやってきたもんやけん、自然と体に染み付いてしもうとるんやろう」
咲耶から槍を返してもらうと、また壁へと立てかける。それも軽々と片手で。
あれこれと刀や槍の話しで盛り上がる三人。部屋に入ってくる日差しを受け、鴉丸がうとうととしている。
こんこん……
部屋の扉がノックされた。
千草がノックに返事すると先程の少女が四人の童女を連れて部屋へと入ってくる。その手には豪勢な懐石料理が乗った盆を持っていた。
その美味しそうな匂いで目を覚ました鴉丸。
目の前に置かれた料理を涎が垂れそうな表情をして見つめている。
「品がないねぇ……山育ちの鴉丸」
猫又の前にも尾頭付きの魚が置かれた。
「さぁ、遠慮のう召し上がってくれん」
黙々と食事をする四人と一匹は、その料理に舌鼓を打っている。特に鴉丸は甘く煮られた豆が大好きなのか佳代へねだっている。
そんな鴉丸に快く煮豆を譲る佳代。代わりに鴉丸がこの地の名物である辛子蓮根を渡した。
「辛いのは苦手やねん……」
そんな鴉丸に、その場にいた一同が笑った。
食事を終えた頃、また、タイミング良く少女達がお茶を運んできた。
そのタイミングの良さに驚く佳代達。
「こん子達は式なんや。やけんうちが念じた事が直ぐに伝わるんばい」
少女と童女達を佳代や咲耶達へと紹介されると少女達が丁寧に頭を下げた。
「わが神貫家も式を使役しますが、ここまでの式は……」
「四家ん方々に褒めらるるとは光栄ばい。こん神社は安倍晴明に縁があるけん、それが代々、受け継がれとるばい」
照れたように答える千草。
しかし、直ぐに真顔に戻った千草が式達に目配せをすると、式達は何も言わずにそれぞれ部屋の四隅に分かれ座って印を結んだ。
何かの結界を張ったようである。
その雰囲気が佳代達へと伝わってきた。
「それでは……そろそろ本題へと移りましょう」
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