「ふふふ……」
首を貫かれても笑みを浮かべ続けるサトを見て、驚きを隠せない千草と、全く表情を変えない佳代と咲耶の二人。この二人には、こうなる結果は予想できていたようであった。
「頼光達と同じようね」
「そげんみたいやね」
顔を見合わせ頷く二人は、頼光達の事を簡単に千草へと説明した。
「お喋りをしている余裕があるのね」
「あなたは妖魔じゃなくて反魂で呼び戻されたのでしょう?」
咲耶の問いにぴくりと眉を動かすサト。初めて笑み以外の表情となった。
「反魂……」
「そう……妖魔と魂玉を元にしている迄は同じ……でも違うのは、反魂で呼び戻された者は、人間の死体を使い作られた体があるという事。だから……普通の生きた人間と同じように生活し、昼夜問わず存在できるのです」
咲耶の言葉を黙って聞いている千草。確かに千草はサトが普通に生活しているだけではなく、教壇に立ち、授業をしていた姿も知っている。
「それだけではありません……今も見た通り、あの体は一時的に傷ついても、術によりすぐに回復してしまう。だから、討伐するなら、魂玉に直接攻撃しなければなりません」
妖魔であれば核となる魂玉を見つける為にその箱となる体を斬り裂いてしまえば良い。しかし、反魂術で作られたサトの体は刀を抜いた途端に傷が塞がってしまう程の回復力。ならば、魂玉を直接狙うしかない。だが、術に守られ、そう易々と魂玉を見つけられる訳ではない。
その魂玉を見つける事を得意とする鴉丸も今は千歳に付きっきりである。
「言うのは簡単だけど……あなた達にそれが出来るかしら?」
「あんたもキヨちゃんから反魂術を?」
「キヨちゃん?」
佳代の問いになんの事か分からないといった表情をしているサトに、佳代がもう一度尋ねた。
「頼光とその四天王と一緒にいる私達位の少女たい」
「知らないわ……私を呼んだのはあなた達よりもずっと年上の女よ」
違った……
その事に少しほっとした佳代。もし、キヨがサトを呼び戻し、このような行為を繰り返しているなら、間違いなく討伐隊として倒さなければならない相手となってしまう。しかし、キヨではなかった。キヨ達はあれからなんの行動も起こした様子はない。
「まぁ……あなた達が知る必要なんてないわ……だってここで死ぬんだから」
そう言い終わったサトの体から、また神通力が溢れ出てきた。息の詰まりそうな程の量である。
「死になさい……」
印を結び呪いを唱えだすサトに、今度は佳代と咲耶がにやりと笑っている。二人のその表情を見たサトの笑みが消えた。
「馬鹿ん一つ憶えんごたる事ばしたっちゃ一緒ばい?」
先程よりも深い踏み込み。
僅かな月明かりを受け、きらりと光る鬼切安綱の刀身。
印を結ぶサトの両手首が宙を舞う。
しかし、その瞬間にまるで蜥蜴の尻尾のように生えてくる手首。
だが、サトは動けなかった。
それ程迄に佳代の抜刀術が速かったのだ。かちりと鞘へと鬼切安綱を納める佳代がまた、サトへと構える。
「雨月じゃなかばってん、再生できんくらいの速さで斬れば良かとやろ?」
「……できっこないをっ!!」
サトの顔が歪んだ。あの笑みは既に消えている。
「佳代ちゃんが一人ならね……」
すっとサトを囲むようにして立つ咲耶と千草。
だらりとした汗がサトの額から流れ落ちていく。だが、サトは三人を見回すと、また引き攣ったような笑みを浮かべた。
「なら……私も奥の手を」
そう言うとサトが、幾つかの印を素早く切ると、えいっと一声上げた。
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