元祖魔剣少女

それぞれの想いを胸に四人の少女が戦いの場へと足を踏み入れる。
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第十二話 お役目御免

公開日時: 2020年10月8日(木) 19:00
文字数:1,836

「よ、よ、よ、四家筆頭……?すらごつだっ!!僕はそぎゃん事は聞いとらんぞ?ただ……こけ来る妖魔討伐隊士達ば殺れとしか……」


振り返った先には、怒りに満ちた表情の千草が立っている。その手に持つ槍が震える程に怒っているのだ。


またがさごそと懐を探る寛太の腹部を千草が槍の石突で思いっきり突いた。腹部を押さえのたうちまわる寛太。


そして、苦しそうに口から涎を垂らしながら、残り二体の妖魔を必死になって探す。しかし、姿どころかその妖気さえ感じない。


「あぁ……あん二体は私が討伐したけん、もうおらんばい」


千草はその手に持つ二つの魂玉を寛太に見せた。


「あぁ……あん女、すらごつ言いやがって……話しが違うやなかかっ」


地面へと拳を叩かつけながら叫ぶ寛太を千草達が囲み見下ろしている。さっきの余裕は微塵にも感じられない。


その寛太へと一歩近寄る千草。じりりと尻を擦りながら後退りする寛太。


「それで……なし、麻美ば殺す必要があった?」


「仕方がなかったんやっ!!一度、抱いてやったら恋人んごつしやがって……分かるやろ?僕にはこん村ん未来が任されとるったい……あぎゃん女に足ば引っ張らるる訳にゃ」


鈍い音が響く。千草が石突で寛太を殴ったのだ。吹き飛び転がる寛太に更に追い打ちをかける。


血にまみれ、全身が泥だらけになっていく寛太を見兼ねた佳代達二人が千草を止めた。


「こげんな外道でん、殺しちゃでけんっ。後は討伐隊に任せとき」


止められた千草は、寛太へと唾を吐きかける。


「……で、あの女とは……濱田の事ですか?」


咲耶がぼろぼろになっている寛太へと尋ねた。寛太は頑なにその問いに答えようとしない。しかし、その頑なな姿が肯定を物語っている。


「なんで黙っているのですか?」


「……」


もう一度尋ねる咲耶に、ぎゅうっと目を瞑りぶるぶると首をふっていた寛太が、何かに気がついたのか、頭を抱えだし一人だけ地震にでもあっているかのように体を大きく揺らし始めた。


尋常ではない寛太の様子に佳代達三人が辺りを伺いながら、鴉丸と千歳を守るように囲い刀を構えた。


「僕は……何にも喋っとらんぞっ!!一言も……一文字も……あたん事は……」


更に体全身を揺らす。


かたかた……かたかたとまるで壊れた玩具のような動き。


すると、寛太が持っていた麻美の魂玉が仄かな光りを放ち、寛太の手を離れらほわりと宙へと浮かび上がっていく。


慌ててそれを取りに行こうとする千草を咲耶が引き止める。


ぼわりとした白い靄のような物が寛太の後ろに浮かび上がってきているのだ。その靄からはとてつもなく大きく禍々しい神通力を感じる。


「駄目よっ、千草さん」


知らず知らずのうちに咲耶は千草を掴む手に力が入っていく。千草もそれを感じていた。なんという神通力であろうか。だらりと大粒の汗が額から頬を伝い顎の先から地へと落ちていく。


「なんと美しい魂玉……」


麻美の魂玉がその靄の中へと吸い込まれる。その靄の中から、女の声が聞こえてきた。


その声に聞き覚えのある千草。


「濱田先生……」


そう千草が呟いた時である。白い靄がくっきりとした姿を現した。あの家を出た時と同じ白装束に身を包みこんだ濱田がそこに立っている。


人差し指と親指で摘むように麻美の魂玉を持ち、月明かりに向けて魂玉を眺めていた。


「なして……なして、あんたがこぎゃん事ば……」


「あら……加藤家の千草さんじゃないの?こうしてかつての教え子と顔を合わせるなんて……懐かしいわね」


魂玉から千草へと視線を移し、にたりとした笑顔を浮かべている。そして、つっと寛太へ近づくと、ぽんっとその肩へと手を置いた。


濱田に触れられ寛太の体が、びくりと大きく反応する。


「……あんたが寛太に殺らせたんか?」


「違うわ……この男が勝手にやった事よ……でも……お陰で、とても質の良い魂玉が手に入ったわ……」


また魂玉へと視線を戻し、陶酔したような表情で魂玉に見蕩れている。


「計算外の出来事だったけど……よくやったわ……寛太」


そう言うと、そろりと寛太の首筋を撫でた。


ぶしゅうっと寛太の首から鮮血が辺り一面へと噴水のように吹き出し始めた。


「あがごごごごご——」


声にならない悲鳴のようなものを上げる寛太の鮮血を受け、濱田の白装束が真っ赤に染まっていく。


「うん……あなたはもう、御役目御免よ」


どさりと横へと倒れていく寛太の懐から、小さな布袋を取り出すとその中へ麻美の魂玉を入れた。


「四家筆頭……ちょうど良いわ……ここで始末してあげる」


布袋を懐へと収めた濱田が印を結び呪いを唱えだした。

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