「くそ……」
「相変わらずな笑い方、ウザ……」
「釘井先輩、知っているんですか?」
超慈がステラに尋ねる。
「まあ、多少ね……」
「多少とは寂しいことを言うじゃねえか!」
声を上げながら明るい髪色で短髪の青年が姿を現す。上にはジャージを羽織り、下にはハーフパンツをはいている。超慈が目を細める。
「あいつが……」
「まさか待ち伏せしているとはね……」
「俺ら体育科はこの時期、体育祭の準備で色々忙しい! そこを狙ったのはわりといい線行っていたが、俺ら『合魂団』にはお見通しだったぜ!」
「合魂団……」
「そう、合魂団の実質ナンバー2……」
「おっと、名前くらい名乗らせろよ……朝日燦太郎とは俺のことだぜ!」
燦太郎と名乗った男は自らを指差して豪快に笑う。
「部長の話にあった朝日燦太郎……」
「パイセンの言っていた通りに馬鹿っぽいでしょ?」
「おいおい、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! ってか、あの人、そんなこと言っていたのか⁉ 地味に傷つくぞ!」
「いえ、部長は超のつく脳筋だと言っていました」
超慈は訂正を入れる。
「おう、そうかそうか……って、同じようなことじゃねえか!」
「ニュアンス的には褒めている感じでしたが……」
「感じでも駄目だろう!」
燦太郎は大声を上げる。ステラがうんざりしたように呟く。
「そうやって、すぐ騒ぐところがウザいっての……」
「声がデカいのはしょうがねえだろう! 体育会系は声出してナンボだからな!」
「まあいいや……一応聞いておこうと思うんだけど……」
「うん?」
燦太郎が首を傾げる。
「朝日……パイセンが戻ってこないかだってさ」
「断る!」
「だろうね」
燦太郎の返答に対し、ステラは肩をすくめる。
「ただ、どうしてもというのなら……」
「いや、いいや。別に無理にとは言わないから」
ステラが手を左右に振る。燦太郎が慌てる。
「お、おい! 人の話を聞け!」
「いいよ、別にもう……」
「興味を失うな!」
「もとよりウチは興味ないから、興味があるのは部長だし……」
「お前や竹村は戻ったらしいな!」
「まあね」
「何故だ⁉」
「何故って……居場所が急に無くなっちゃったようなものだからね」
「倶楽部も同好会も大分派手にやられたようだな?」
「そうだね」
「噂程度には聞いているが、この短期間で一年連中を灰冠さんが鍛え上げたのか?」
「あの人に育成手腕があるとマジで思っているの?」
「全く思わねえ!」
「そうでしょ」
「部長、随分な言われようだな……」
2人のやりとりを聞きながら、超慈が呟く。燦太郎が顎に手をやって頷く。
「ということは……一年の奴らがなかなかやるということか」
「見たところ、それなりの魂力を持っているよ」
「その眼鏡くんも一年だろう? 膝をついてしまっているが?」
燦太郎が超慈を指差す。ステラが間髪入れず答える。
「この子はアンタと同じ『脳筋枠』だから」
「フォ、フォローなし⁉」
「俺はそんな枠に入った覚えはねえぞ!」
ステラの答えに超慈は驚き、燦太郎は憤慨する。ステラは立ち上がる。
「ウチとしてはマジでどっちでも良いんだけど……例えば、合魂団を潰せば……アンタも聞く耳を持ってくれるってことかな?」
「出来るもんならな!」
「来るよ!」
ステラが超慈に声をかける。超慈も慌てて体勢を整える。
「遅い!」
「ぐっ!」
超慈は吹き飛ばされる。ステラが声をかける。
「大丈夫⁉」
「ま、まともに喰らっちまいました。なんてスピードだ……」
「それはそうだろう。なんてたって……」
燦太郎が自分の靴を指差す。ステラが口を挟む。
「『魂武亜棲』……あいつの魂道具だよ。あれであいつの元々の俊足が更に強化されている」
「お、俺より早く説明すんじゃねえよ!」
燦太郎が憮然とする。仰向けに倒れていた超慈が半身を起こして呟く。
「なるほど……そういう魂道具もあるのか……」
「どう、やれる? 無理そう?」
「いや、美人の前で弱音吐いていられないでしょう……」
「! び、美人って……」
超慈の言葉にステラは顔を赤らめる。燦太郎が叫ぶ。
「隙ありだぜ! 釘井! お前の魂力を頂いてやるぜ!」
「⁉」
「なっ⁉」
ステラに飛びかかった燦太郎が驚く。自身が繰り出したキックを超慈が刀で受け止めていたからである。
「ぐっ……それ!」
「ば、馬鹿な……何故反応出来た?」
「俺の魂道具、魂択刀は魂を選ぶ刀……故に高い魂力を感知することが出来る……」
「な、なんだと⁉」
「……ような気がする!」
超慈の言葉にステラがずっこける。
「ちょ、ちょっと感心しかけた気持ち返してよ!」
「結果オーライでしょう!」
「ちっ!」
「む⁉」
燦太郎が姿を消す。ステラが慌てる。
「また見失った!」
「落ち着いて! 右斜め前に糸魂蒻を!」
「⁉ えい!」
「ぐおっ⁉」
ステラの繰り出した糸に片足を絡め取られた燦太郎は転倒する。
「や、やった⁉」
「魂力を感知出来るって言ったでしょ?」
「くそ……『力任せ蹴り』!」
「なっ⁉」
燦太郎がもう片方の足で糸を切ったことに超慈は驚き、ステラは舌打ちする。
「それなりの硬度の糸を蹴りで切った⁉ これだから脳筋は!」
「小細工は要らねえ! 正面から蹴り飛ばす!」
燦太郎がステラたちに突っ込んでくる。ステラが糸を繰り出す。
「くっ! なっ⁉」
「脳筋でもそれなりに考えるぜ!」
燦太郎が後ろに回り込んでステラの背中を狙う。
「しまっ……⁉」
「もらった! なにっ⁉」
「そうはさせねえ!」
再び超慈が燦太郎のキックを刀で受け止める。燦太郎が苦い表情になる。
「またか、眼鏡! いい加減しつこいんだよ!」
「その言葉そっくり返すぜ!」
「ちぃ!」
超慈の振るった刀を燦太郎がかわす。
「くっ、素早い!」
「動きが読めても捕まえらえなきゃ意味ないぜ!」
「釘井先輩! 糸を俺に巻き付けて!」
「ええっ⁉」
「速く!」
「そ、それ!」
ステラは言われた通りに超慈の体に糸を巻き付ける。超慈は叫ぶ。
「強く引っ張って下さい!」
「う、うん!」
「あ~れ~!」
糸がほどけた超慈がコマのように回転する。回転によってグラウンドの芝が舞う。
「⁉ くっ! 芝が目に……!」
「動きを止めたな! そこだ! ……って、め、目が回る……」
超慈がフラフラとしながらも燦太郎との距離を詰める。
「しまっ……!」
「喰らえ!」
「ぐはっ……!」
超慈が強烈な頭突きを喰らわせ、燦太郎は仰向けに倒れる。
「脳筋同士らしい決着なのかな……?」
ステラが首を傾げる。
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